負けず嫌い


カフェオレを啜っていた口腔は、ほのかに甘くその柔らかさととも
に舌先を楽しませてくれる。
「んぅっ…」
まだ負ける気のないらしい大佐は、腰砕けになりそうなのを堪え
つつ、懸命にこちらに反撃を狙って舌を潜らせてくるのが解った。

…さすがに、上手い。
年の功やら色んな奴とのお付き合いの経歴やらは、伊達じゃない
絡ませる舌を外しては、唇裏を辿り歯茎の内側をゆっくり舐められ
こちらの快楽を煽ってくる手順は、流されてしまえば相当に気持ち
良さそうだが……ここで負けては、今後のお付き合いそのものに
影響がありそうだ。


抱き締めてる立場の優位性を、ここは利用させてもらうとしよう。
腰を抱き締めていた片手を外し、大佐の身体に添って指を這わせれ
ば、敏感なその身体はピクリと震える。
紅く目尻を染めて睨んでくる可愛らしさは、年上の男としてありえ
ねえだろなんて喜ばせてくれるだけなのを、気付かない鈍感さも
たまらない。

「ひゃっ…!ひっ卑怯だぞっ」
睨んだままそれでも果敢に口接けを続けていた大佐は、指先を背骨
の窪んだ箇所に沿ってツーっと滑らせたら、少し間の抜けた悲鳴を
上げて重なっていた唇を外した。

「卑怯だなんて心外っスねぇ…」
「えっ…あっ… だめ…ひゃっ!や…だハボ」
大佐が背中に弱いのは知っていたけれど、こんな時じゃなきゃ普段
責めたりしないのだから戦略的だと言って欲しい。
触れるか触れぬか程度の指先を、窄めては開いてそっと皮膚の感触
を楽しめば、大佐の手は襟元を掴む形から縋るような形に変わる。
勿論それで手を休めてなんかは、してやらない。
シャツの上から遊んでいた掌を、直接背中に潜り込ませれば少し
抵抗する素振りを見せても、すぐに力が抜けた。
滑らかな感触は、鍛錬のせいで固くなった俺の指先に吸い付くよう
で、どこを触れても大佐は「あっ」とか「ん…」と可愛く鳴いて、
遊び半分の理性が切れそうなぐらい扇情的だ。

「やっ…… やぁっ」
「やだってそんな甘い声で言われても 説得力ないっスよ」
「うるさっ…んっ…… 莫迦…ぁ」
段々と膝から力が抜けていく身体を、自分に頼る形にさせる征服感
は俺を高揚させていくばかり。
そろそろ冗談じゃすまなくなるかなと、僅かに屈んで大佐の耳朶に
低く囁きかけてみる。
「…参ったします?」
「参らないっ!」
黒曜石みたいに綺麗な瞳を涙で潤ませながらも、反射的に負けず
嫌いを出してくれてありがとう。

しまったなんて顔しても、もう遅いです。
冗談プランから、本気で頂きますプランに切り替えた俺はこの人の
こういう所ってある意味扱いやすいよなと、大佐の目尻を舌で拭っ
て、もう一度唇を重ねることにした。