over my limit


告白しようと、二人きりになった時間を狙って、声を出そうとした
瞬間……口元を大佐の掌で塞がれた。

「…ダメ、だ」
簡潔かつ、それ以上はない拒絶の言葉。
何故とかどうしてとかの疑問の言葉も、うつむいてこちらを見よう
ともしない大佐の前では、紡げなくなる。


――だから、なかった事にしたのに。
告白しようとした時間が存在しなかったように、今まで通り物分り
はよいけど我侭な上司と、図々しいけど大佐を尊敬する部下を
演じ続けたのに。
二人きりになった途端、気まずげに黙らないで下さい。

自分がダメだと言ったんだから、普通の上司としての言動を続けて
下さいよ。
ねえ、こっちを見て。

「あ…まり…こちらを…見るな」
「…命令っスか それ?」
――なんで、黙んの。
空気悪くしてるの、俺じゃなくてアンタだよ自覚ある?

「…困るんだ」
「アンタがダメだって言ったから、俺は普通に接してるつもりッスよ
それとも同性に告白しようとしてきた部下だから見られてるだけで
視姦されてるみたいだとでも?」
いささか自虐に言い返すと、無表情になった大佐は目線を逸らす。

このまま黙って見詰め続けてやろうか。
それこそ舐めるみたいに視線を送り、脳裏で裸にしてやりたい誘惑
に駆られる。

「お前と二人きりだと…落ち着かない」
小さな呟きは、俺に言った訳ではないようで、…むしろ大佐は自分
に言い聞かせているようだ。
「何を言っていいのかもわからなくなる だから…ダメなんだ」

聞こえた言葉が信じられなくて、細く息を吸った後大きく吐いた。
「駄目はこっちの台詞ですよ」
俺の感情を殺した低い声に、大佐の体がびくりと跳ねた。

「あきらめようと思ってたのに……そんなの聞いちゃ もう諦められ
なくなる」

目を丸く見開いて、自分を見つめる大佐に大股で歩み寄り正面に
立つ。
「好きです 大佐」
見詰め合った形になった大佐が、また逃げたりしないよう腕を
伸ばす。触れても逃げられないのをいい事に、大佐をそっと抱きし
めてみる。
暴れない大佐を前にした俺に、もう抑止力はなかった。