なりゆきプロポーズ



ハボックが、なにやら告げたいらしいとロイが察したのは、食事の
準備中だった。
勿論準備はハボックが行なうもので、ロイは居間のソファに寄り
ながらかり、新聞を読んでいるだけなののだが、これはハボックの
ほうからも「頼むからアンタ包丁握らんで下さい」と言われている
のだから、ロイのせいではない。

ただ、そんな情況でも普段のハボックなら何気なくロイの動向に
気を使い、味見と称して料理の一部を小皿に持ってきたり、ワイン
の用意を頼んできたりと声をかけてくるのに、今日はそれらが全く
なかった。

何か忙しかったりするのだろうかと、並んだ料理をみてみれば
どれも凝った、ロイの好物の中でも手間のかかる料理ばかりで
ハボックが空腹で切羽詰っていたわけでもないようだ。

「美味いぞ」
「…そうっスか」
普段なら、一言褒めるだけで上機嫌の犬のようにはしゃぐハボック
が、今日はロイから目線をそらしたままだ。
「……浮気の告白なら早めにしておけば、レアで済ませておいて
やらんでもないが?」
「は?」
「なんだ違うのか 私の好物を作って、それでいて目線も合わせ
ないのだから…疚しいことでもしたのかと」
「違いますよっ!何でそうなるんスかっ」

「ああもうっ!」
叫んで自分の頭をくしゃくしゃに掻き毟るハボックの顔は、何故か
赤い。
とりあえず自分は間違えたらしいと悟ったのだが、ここで謝るのも
マヌケかと迷ったロイは、無言でアボカドとエビをフォークでつつき
皿の上で踊らせていると、ハボックは唐突に立ち上がった。
ばんっと両の掌は、テーブルの上で大きな音を立て、ロイを一瞬
萎縮させる。

「あのですねっ! 俺色々悩んでたんスけど、最近は週の半分
ぐらい俺の家か大佐の家で過ごしてるじゃないっスか」
「そうだな」
「だからっ…もういっそ俺の家で一緒に住みませんか?…」

言い切ったとばかりに、唇を噛み締めロイを見るハボックの鼻息は
荒かった。

「断る」

ロイのそっけない一言に、ハボックの表情は凍る。

「…お前の家だと狭い 色々くつろげない時もあるし…周囲に
一緒に暮らす言い訳がみつけにくい お前が、ここで暮らせ」
「………へ?…えっと…一緒に……俺が…?」
断られたと思っていたらしいハボックの混乱振りに、ロイが耐え
きれず小さく吹き出した。

「お前からプロポーズしてきたくせに、その反応か」
「いやだって…え…やっぱりオッケーってことっスか!?」
疑問系で尋ねておきながら、すでにロイの答えを待っていない
ハボックは大股でロイに歩み寄ると腰を抱え、抱き締めた。

「こういう場合、『不束者ですが よろしくお願いいたします』…と
いうのではないのかね?」
「いやそれは嫁さん側の台詞っスから 言うなら大佐でしょ」

ハボックのさりげない反論は、どうやらロイのプライドに触れてしま
ったらしく、この後二人は2時間ほどどちらがこの挨拶をするかで
論争するのであった。