ラヴァーズパジャマ オマケ



 緩んでくる頬に気をつけて、ずっと大佐のこわばりが溶ける迄
背中を撫でたり軽く叩いたりして、鼻歌を洩らしたりしていれば
ゆっくりと大佐の体の緊張も小さくなっていった。
 ぎゅっと力を感じていた首の後ろに廻されていた手が、おずお
ずと肩に掛けられて、大佐の頭が俺の眼前に移動してきた。
朝っぱらから、大佐のちょっと照れて困った顔をこの距離で拝め
る幸せなんて、そうあるもんじゃない。

「…あの、だな」
「何スか?」
「……こうしているのは…気持ちいいんだが…お前にとって重い
し足も痺れる体勢だろう…?…何を笑うのだハボック」
「いや本当に大佐ってば甘えるのがヘタでかわいいなあって」
上機嫌のハボックは困惑顔のロイの背中を、ポンッと叩いた。
「甘えるって言うのはこういう時に重いんじゃないかって遠慮を
するんじゃなくて『気持ちいいからもっと撫でろ』って主張する
コトを指すんスよ」
「…しかしそれでは…不公平で…」

 不明瞭に大佐の口調は、理解はできているけれど納得してない
という風情で何事もキッパリとした行動を好むこの人にしては
珍しい。

 そう思って黙って見詰めていると大佐はそのまま瞼を伏せた。
ああそうかようやく解った、この人を何が支配しているのか。
「ねえ大佐 心に価値なんてつけられないんだから無理して等価
交換を求めようとしないで下さい」
「…ハボック…」

それでいいのだろうかと迷う声の大佐は、いつも溢れている
強さが無くて、そんな様子を俺だけの前で見せてくれているのか
と思うと…嬉しさや切なさで堪らなくなる。

「そりゃ俺が大佐のことを好きなのと同じぐらい 大佐が俺を好
きになってくれたら嬉しいけど…等価交換で好きになってやる
なんて言われたら 却って哀しいっスよ」
「わ、私はそんなつもりでは……」
「わかってます でも無意識でも大佐は俺に甘えたらその分何か
を返さなくっちゃって思ってぎこちなくなっちゃうんでしょう?
俺の望みは 大佐が安心して俺の傍に居られんだってのを確認
したいからの甘えてで…無理強いさせたい訳じゃない」

――この際二万センズのことは棚に上げておく。大佐がうっかり
言ってしまったのには気づいてたけど、それに乗じてでもしない
限り、こんな申し出絶対できないし逃げられると解ってたから。

「…こうしてると…気持ちいいのは本当だぞ」
 ぴたっとくっついて来た大佐は、また顔を俺の首筋に埋めて
しまって顔が見えない。それでも返してきた声には、今しがた迄
の困惑と迷いは消えてどこかに甘さが含まれていて、俺を嬉しく
させる。

「好きですよ 大佐」
「…私もだ」
「同意じゃなくて 大佐の言葉にしてくれないんスか?」
「……私も 好きだ」

 今俺に見えるのは、首まで紅く染まった白い皮膚。
顔を見られてなるものかと、がっしりしがみ付いて離そうとしな
い巻きついた腕もおかしくて、可愛くて。
しがみ付いて硬くなってる腕を、解すように撫でて目線が合う
よう座り直させる。

「目ェ閉じてください」
ゆっくり顔を近づけても、きょとんとした顔のまま俺の膝上で座っ
ていた大佐は、やっと状況が飲み込めたらしく慌てて俺の肩を押し
返して顔を逸らした。
「…大佐?」
「わ、…私の方から…キスをしてやるからっ お前が目を閉じろっ
に…二万センズ貰ってるんだからな!」

 その恥ずかしがってるアンタの様子と精一杯の言葉は、俺に
とって二万センズと等価交換なんて比じゃない位の価値だけど
…たまには優越感を味わいたい俺は、それを口にしないで「了解」
とだけ短く答え、ゆっくりと目蓋を下ろした。

…尚、本当に甘えるのが苦手なこの人は、俺の膝上で一人深呼吸
を繰り返してはそっと唇を寄せかけて、俺の息がかかると慌てて
離れ…もう一度深呼吸という仕草を五分した後でやっとキスして
くれたと記しておく。
…女性相手だと、出会って三分の相手でも挨拶としてスマートな
キスをこなせる大佐が、俺相手にだけこうなのは自惚れていい事実
と取らせてもらおうと、俺はやっと重ねられた柔らかく温かい唇を
甘噛みして、そっと舌を潜り込ませた。

「んっ…」
 小さく喉奥から洩らされた、濡れた声に今日の予定は全部変更。
そっと耳朶を舐め齧って、せっかく着てくれたパジャマのボタンを
外して、白く滑らかな皮膚を指で辿る。
 …二万センズじゃ割に合わんと、後から怒られるかもしれない
けれど、そんな計算なんてどうでもよくなった俺は大佐の腰を更に
自分の元へと引き寄せることにした。
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ごめん ここで終わる!