互いの距離/ハボ


 胸元にある、温かい存在。

元々寝息をしているのか心配になる位、身動きのない寝方をする人だった
けど、俺という存在が横に居ても、静かなその眠りで変わらずにいてくれる
だけで嬉しくなってしまう。
 普段きつくなりがちな目線が伏せられているせいか、やっかいごとに係わ
る率が高いせいで刻み込まれている事の多い眉間の皺がないせいか、…それ
ともそれら合わせた両方の理由かで、もともと年より若く見える大佐の顔は
いっそ幼いと表現しても言い過ぎじゃないほど、邪気がない寝顔だ。

 俺の二の腕を枕に、眠っている大佐を仰向けに伺い覘いていたけれど、
これでは一部しか見えやしない。
起こしてしまわぬように、そっと天井側向けてた体を起こし大佐の頭を
抱え込むように横向きになると、大佐は小さく「んっ…」と陽射しを避ける
かのように、俺の胸元に擦り寄って丸まった。

 いつも心のどこか壁を作って世界に向き合っているこの人が、くつろぎ
安らげる場所がここであってくれる至福と、警戒の微塵もない無防備さに
ついついちょっかいを出したくなってしまう誘惑。

俺より細い体で、世界の理不尽へと立ち向かおうとする勇気と健気さと強さ。
…その何もかもを含めて惚れたのだけど、それらの感情をあわせて自分の力
を揮う大佐は、時として己への叱咤で痛々しいぐらいで、…こんな幸せに
微笑むように俺の腕の中で眠ってくれているのが、切なくて胸が苦しくなって
しまう程に嬉しい。

 もう一度俺も眠ろうかと目を閉じれば、まだ起きる様子がない大佐が俺へ
と縋りついてきて、シャツの胸元をぎゅっと握ってきたりするんじゃ、眠りに
入るなんてできやしない。

「あーもう安心しきってくれてるのは嬉しいんだけど…その無防備な顔で
擦り寄ってくるって拷問っスよ…このまま手ェ出したら……やっぱ蹴り飛ば
されるかなあ…」

 俺への返事か、無意識か。
大佐は小さく「…んっ」と呟いて更に丸くなろうとするのを聞いた俺は、
せっかくの休日大佐が目を覚ましたら、それこそあんな事やこんな事をする
べく手を出させてもらおうと、自分に忍耐を言い聞かせ肩を出した大佐に、
上掛けをひっぱりあげて全身を包ませた後、もう一度瞼を伏せた。