酔いの建前



無理矢理の残業へとお詫びにと、ロイが誘ってくれた酒場へのご招待。
ただ酒ただ飯とくれば、ハボックは断る筈もなく、日頃の注文では少々
悩んでしまう、ワンランク高い酒を注文し、食事を待つ。

「…大佐、なんか食ってからの方がいいんじゃないっスか?」
朝食は、巡回中にもらったらしいクッキーを東方司令部名物まずい
コーヒーで流し込んでいるだけ。昼飯は多分食べていない、夕飯はこれ
から来る筈のもので…つまり、ロイはほぼ一日何も食べていない状態
で、ハボックと同じ強めの酒を、喉に流し込んでいた。

(―あーぁ、もう顔赤くなってるし)
変なところまでプライドが高いこの上司は、酔っ払った姿=みっともない
=ゆえに私は酔っ払いという醜態姿を晒さぬという持論があるらしく、
ハボックの胃が空っぽだと、悪酔いするからという説得は馬耳東風で、
聞き流されていた。

「…で、やっぱここだけは意見が逢わないっスねぇ」
なんとなくの話の流れで、女性全般は素晴らしいものだが、あえて好み
をという会話。
柔らかい印象の内気な女性もいいが、少しキツめでも優しさがあれば
良いという点で、ロイとハボックの意見は一致。
サラサラの黒髪がいいというハボックに対し、金髪が好みだというロイ。
これは互いにないものを求めているという点で一致。
ちょっとキツめの目付きが好きだというハボックと、愛嬌のある感じが
あって、垂れ目も可愛いんじゃないかというロイは、互いの意見を尊重
しあい、この点も問題なし。

「結局、最後は太腿かボインか…になるのだな」
一般市民がいるところで、流石に声を大に主張できる話題ではないと
ロイが声を潜めると、ハボックも同じく潜める。

議論に乗じて、すでにグラスは3杯あけたところでようやく最初の料理が
到着をした。
アボカドとツナを混ぜたクリームパスタは、生ハムが添えられいて熱で
変化しないうちにと早く食べることをすすめられる。

ニンジンをピーラーで薄切りにし、生のイカとマリネにした皿は、黒胡椒
がきいていて、ツマミにちょうど良い。
野菜が不足しているからと、これを薦めようと顔をあげたハボックは、
ロイが一瞬ではあるが、目蓋を閉じかけているのを見た。

「…眠いなら、早めに切り上げましょうか?」
「何のことだね?」
即座にあげられたロイの顔には、張り付いた笑顔。

(――この嘘笑顔が通用すると思ってる程度に、酔っ払ってるな)
ロイの身近にいるものであれば、心からの笑顔と、営業用の仮スマイル
の差ぐらいはすぐに解る。

ならば、からかってやろうとハボックが思いついた悪戯はささやかなもの
だった。
酔ってはいないが、アルコールでハイテンションだったと悩むのは、
翌日の朝になる。

「大佐と俺の好みって色々一致してましたよね」
「ああ、そうだな」
「俺が黒髪が好きで、大佐が金髪好き 釣り目が好みな俺と垂れ目好み
な俺…なんか、俺と大佐がお互いを言ってるみたいじゃないっスか?」
「……確かに…そうだな」
「じゃあ試しで俺らつきあってみましょうよ! 俺がボインの良さをその間
に大佐に教えますから、大佐は俺に太腿の良さを教えるってことで!」

どう考えても、理論的におかしな流れだと思うのだが、勢いというのは
止まらないもので、酔ってないと主張するロイはそれが素晴らしい話の
ように受け止められた。

「よしっ!では今から私とお前はおつきあいをはじめる!」
「サー!イエッサー!!」
「では今日は、お前は私の家に泊るといい!!」
「え……いいんスか?」

酔っ払ったロイを連れ帰り、一緒にベッドで眠ったハボック。
話の流れを記憶しているだけに、明日のロイへの対応を悩んだまま、
ブランケットを引き上げ、なんとかなるかと眠りにつくことにした。


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ツイッターで、酔っ払ったフリのハボックと酔ってるけどシラフなフリの
ロイがお付き合いをノリで始めちゃったら可愛いよねのお話からのネタ(笑)
練る時にハボックが剥いちゃって、お互い目覚めたら全裸
記憶があるハボックは枕元にシーツ一枚で正座していて、掛け布団被ったロイは硬直して
見詰め合ってると可愛いよねまで展開いたしましたw