馴れ合いと馴れ初め/オマケ

 身長差の都合上、ロイとハボックが二人並んだ場合、ロイの目線の位置に
ハボックの首筋が来る。
ロイは自分の手元ですら外すのに苦労したネックレスの留め具を、距離ある
不自然な体勢で、とめられるのかとの疑問に出る答えは、当然ノーだ。

背中越しのロイの苦闘を察したハボックが、椅子に腰掛けましょうかとの
提案を出したのは、まさか上司のプライドから癇癪はおこすまいが、ロイが
勢いあまって鎖を引きちぎってしまう可能性を懸念したからだ。

「よし 座りたまえ」
ハボックの行動が、自分の不器用さに発端すると察しているロイの口調は
必要以上に偉そうで、ハボックの笑いを誘う。
「…何がおかしい」
「いえいえ 座る許可を与えていただきありがとうございます、サー」
ここで『可愛いなと思いまして』と素直に口に出せば、無防備に向ける
背中にどんな報復をうけるかわかったものではないと、学習済みのハボッ
クが返すと、ロイもそれ以上の追求はやめた。

首筋辺りで短く刈られている金髪と、少し俯き加減でいるため露になった
ハボックの首筋は、日頃の鍛錬を想像させる締まった肉をしていて、見下
ろすロイの悪戯心を誘った。

「うひゃうっ!! ちょっ…アンタ何してるんスかっ!」
奇声を発したハボックが振り返ったのは、金属のヒヤリとした感触を予期
していたのに、項下に触れたのが生暖かいぬめった感触を持つものだった
からだ。
顔を紅くして軽く睨むハボックに目に映ったのは、椅子の背に手を掛けた
ままで、上目遣いのロイの顔だった。
やってしまった行動への反応にビックリしているというよりは、己のしで
かした行為に驚いているといった様子で、硬直している様子はまるで
理不尽に叱られてる仔猫のようだ。

 だが、現時点で理不尽を感じていいのはハボックのはずで、軽く吐息を
つきながらムニムニと感触の良いロイの頬を摘めば、我に返ったロイに
掌をぺちんと叩かれた。
「何をするかっ!」
「…それは俺の台詞っス 大体なんでいきなり首筋舐めてきた方が固まっ
てるんスか」
「うっ……」
 頬にかすかに朱を刷いたロイは言葉に詰り、目線を逸らすがハボックは
それを許さず、振り返るという不自然な体勢のまま器用に椅子の背凭れ
越しにあるロイの肩をかかえ、逃亡不可能に抱き寄せた。

「ねえ 何で?」
 余裕ある口調で、耳元に囁く低い声。
笑いを含んだ問い掛けに、怒りは篭められていないが力強い腕は逃げる事
を許してくれそうもなく、ロイはハボックから顔を逸らしたま、渋々と口
を開いた。
「…お前の……締まった筋肉は…きれいだなと思ってたら…」
「思ってたら?」
口を噤んで語尾をごまかそうとするロイを、空いた片手で顎を掴みハボッ
クが続きを促す。
「…舐めたくな……いや違うっ!そう考えた訳じゃなく…体が勝手に…」
「………」
ハボックの沈黙をどう捉えたのか、ロイの顔の赤味は更に増し何とか腕を
振り解けぬものかとばかり、抵抗を始めた。

「アンタねぇ…」
喉奥から紡がれた、ハボックの低い声にロイがビクリと震えた。
「…怒った…のか?ハボック…」
「違いますよ そうじゃなく……」
抵抗を収めたロイが、そっとハボックの顔を伺ってくるのに苦笑した様子
で立ち上がり、ハボックはロイをそのまま掬い上げた。
「うわっ!…何をするのだっ」
「…あんま可愛いことしないで下さい我慢きかなくなります」
 バランスを崩したロイの体を、自分の膝合間に座らせたハボックはその
ままロイの襟足に掌を偲ばせ、黒髪を梳き上げうなじをぺろりと舐めた。

「ひゃっ……ハボッ!お前っ」
「…それともここで火遊びしてみます?…今度は俺がアンタにネックレス
買ってきますから」

「いらん」「いらんと言ったらいらんのだ」「いーらーなーいー」と繰り
返すロイは、上機嫌に笑うハボックに抱き締められながら、いつしか自身
も連られるように上機嫌に笑いはじめていた。

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以前ホワイトデーメーカー(usokomaker.com/whiteday)で出た
 『ハボ「今度火遊びしよーや」でネックレスをプレゼント』
というのがツボだったのですが、この口調ははどうも髭のイメージ

通常ハボックでなら、どうだろうとネックレスネタを考えてみたら
ほのぼのになりました