オマケ

「…綿飴なんて どっかイベントでもやってなきゃ買えねえよなあ」
無造作に跳ねた後ろ髪を、更に掻き乱すように指先を動かすハボック
は答を求めてではなく、独り言に近い確認で呟く。

 ロイ個人執務室から出てきたハボックが、難しい顔をしていたのを
何事かと見やっていた部下や同僚達は、何故そんな事を問題にして
いるのだろうと軽く疑問に思いつつ、一番食べ物関連の情報に詳しい
ブレダが「ちょっと探すことになるけど売ってるぜ」と答えた。

「…マジで? あの綿飴作る機械を設置してる店があるとか」
自分で買って食べるほど好きではないが、デートなどで祭りをふらつ
いている時目に入る、砂糖がみるみる雲状になっていく様子はどこか
郷愁を誘う懐かしさがあって、ハボックも綿菓子を作る過程を眺めて
いるのは好きだった。
 だが、予想していた答とは異なりブレダは掌を振って「パックに
なってるんだよ」と短く返してきた。
「食料品店とかじゃなくてキャンディーショップとか子供向けの玩具
や文房具のついでに駄菓子を売っている店とかにありますね」
と続けたフュリーも、「そのままの状態では潰れますので空気を充満
させた上で 個別パックをして売っていますよ」と続けたファルマン
も存在を知っていたらしい。

「…大佐と俺ぐらいか知らなかったの」
 まあそれならそれで、手に入れるのはたやすいかと思ったハボック
は、ふと気付いた。
…市内巡回のついで、ちょっと買ってくればとか思たけど…でっかい
図体の軍服がキャンディーショップやお子様向けおもちゃの店にって
……すげぇ目立つよな…
 ならば昼休みを利用して私服に着替え買出しに行くとしても、可愛
らしい店中に、大男は目立つことこの上ないだろう。

 どうせ人目を引くことに変わりないなら、せめてもの腹癒せに大量
の綿菓子を購入して、大佐を困らせてやる。
そんなハボックのささやかな報復は、嬉しい誤算で駄々を捏ねたロイ
に自分の指で綿菓子を食べさせるという行為で、報われるのだった。

「大佐 俺の指ベッタベタなんスけど?」
「……そうだな」
「綿飴食べたいって上司の為に 休憩時間を削って一般市民を驚かせ
ないようにわざわざ私服に着替えて 買出しに出かけた相手にご褒美
くれません?」
これみよがしに差し出したハボックの指先を、暫し睨みつけるロイ。

 さてどう返してくるかと、興味半分期待半分で見下ろしていたハボ
ックの指先を、ロイはぐいと口元へと引き寄せる。

――え…ホントに大佐…舐めてくれんの!?
 だがハボックのときめきとは裏腹に、鍛錬で節だった長い指先を
はむっと唇で挟んだ後、ねっとりと舐め上げるロイの上目遣いは色気
からほど遠く『私を困らせようとして言っているのだろうが 負けて
などやらん』の気概に満ちていた。

「…大佐ァ こういうエロい行為はもうちょっと艶っぽくお願いでき
ませんですかね?」
「不服なら止めてやるぞ」
「…いえ 現状続行願います」
 
 負けん気のみで男の指先をしゃぶるというロイを、『どこまでも厭き
なくて面白れぇよなあ』まあこれはこれで悪くないかと、ハボックは
熱い舌先が指股の薄い皮膚を辿る感触を楽しみつつ、清められるまで
黙し立ちロイを見下ろしていた。