オマケ 下

「…ハボックの奴が私を『大佐』としか呼ばんのだ」
「…ああそれで 名前の呼ばれ方シミュレーションしている所に本人が
来てテンパったお前さんが 訳判らん言動にでたということか」
 一を聞いて十を悟る友人に、隠し事は今更だとロイは素直に こくんと
頷いた。
「まあ…私のほうもハボックとか少尉としか呼んでいないのだから……部下
であるアイツが名前を呼ぶなど難しいだろうし……」
「相変わらずロイちゃんは変な所で考えすぎんなぁ… お前さんが上目遣い
でもつかって可愛く名前で呼んでと頼めば アイツなら尻尾振ってお前の
名前連呼するだろうに」
「そ…そうだろうか?いや…しかし…私に可愛くなどという芸当が…」
「あーもうまどろっこしいっ!おーい ハボック少尉こっちへ来いっ」
ロイが口を挟む隙を与えず、大声で大部屋の方にいるハボックを召喚した
ヒューズは、入口から進んでいいものかと佇むハボックに、もっと近寄れと
手招きをした。

「なあ少尉 お前さんもこの前のロイの奇行気にしてるみたいだったから
教えてやるが… あれはロイなりの戦術でな 部下であるお前にも名前を
呼びやすくしてやろうとの努力の結果だそうだ」
「…マスタンガないがっスか?」
 ハボックの語尾が微妙に震えているのは、思い出し笑いを堪えているため
だろう。吹き出さない努力としてわずかに揺れている腹筋は、厚い布地の上
からもでも見て取れた。

「まあ普段なら お前らのことはお前らで解決しろと抛っておくんだがな…
今回に限っては腹筋痛くなるほど笑わせてもらった礼に ちょいお節介
やいてやるさ」
「…ヒュ、ヒューズ!?何っ…」
 そう言いながらロイの肩を抱き寄せたヒューズは、一度ぎゅっと腕の中
の親友を抱き締めた後、体を反転させ肩口を軽く押し、ハボックの方へと
バランスを崩させた。
 慌てて受け止めるハボックを介した様子なく、ヒューズはロイへと語り
かける。

「…まったく お前の鈍さも程があるってもんだろうが このワンコ俺がお前
のことをロイとかロイちゃんとか呼ぶ度 すんげー生意気な目付きで俺の
こと睨んでやがるんだぜ?名前呼びに拘るんなら自分の方でも気ィ配って
やんな」
「…え…?」
 顔を僅かに紅くロイが見上げれば、抱きとめた腕の持ち主はもっと紅い
顔をしていた。
「…そりゃ……俺だって……」
「ハボック……」

 見詰め合う二人の間に、これみよがしの手刀が割って入る。
「はいそこまで〜 とりあえず今から十五分二人きりにしてやる その後は
1時間ほど俺のエリシアちゃん初折り紙作成記念についての語りに付き
合ってもらおうか」
「…何だそれは」
「んー?どうせお前らだけだったらお互い誤解しあって一週間はグチグチ
悩みまくっていただろうが それに比べて俺の素早い解決…報酬に値する
だろう?しかもそれが俺の天使の心潤う日常話だ!」

 そう言って手を振りながら部屋を出て行くヒューズに、苦笑したロイは
その背中に小さく礼を述べた後、自分の大事な人に違った呼びかけを
しようと、ゆっくりと顔をあげ唇を開いた。

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オマケのオマケ

「…ハボ……」
「へ?」
「…っ!貴様 よりにもよって『へ?』とは何かねっ 私が精一杯の努力を
して呼んだというのにっ!!」
「…え…いや…だって大佐…俺の名前を呼びたいんじゃ…」
「だから呼んだではないかっ!」 

 この時点まで「ジャン」と呼ばれるかもと盛大に胸をときめかせていた
ハボックは、当人にとって慣れた「ハボ」の呼びかけが普段とどう違うのか
を捉えられず、咄嗟に今までの呼び方とどこが違うのかと口に出してロイ
に尋ねてしまう。
 「ハボック」の呼び方を「ハボ」に改めるのに大変な緊張を強いられていた
ロイに、お前はなんと言うデリカシーのない男だと怒られむくれられてしまう
のだが、それでもとりあえずは両者とも幸せだった。

「ハボもいいっスけど ジャンって呼んでくれませんか?…ねえロイ」
「………っ!」
 あっさりと自分のファーストネームを囁いてきた部下に、生意気だとつっか
かるロイは、あっさり十五分が経過してしまい『ジャン』と呼ぶのにまた苦心
をする羽目になるのだった。