オマケ 上

「よぉーーっ!マスタンゲ大佐いる〜?」
 言葉尻を上げて、爽やかな笑顔で訪れてきたヒューズの言葉にロイ
は盛大に飲んでいた紅茶を吹き出した。

「…今 中佐、大佐の名前じゃなくて珍しく苗字の方を呼ばれてましたね」
「苗字っていうか…俺にはマスタングじゃなくてマスタンゲって聞こえたん
だけど」
「実は 私もそう聞こえておりました」
部下たちが小声でかわす会話は直接的な問い掛けでなくとも、紛れも無い
直属上司への疑問だ。

「なっ…ヒュ…お前どうして……」
慌てて口元を拭うロイが『どうしてヒューズが 自分が混乱状態に口走った
マスタンゲ発言を知っているのだ』と意を込めてハボックを睨めば、当人は
濡れ衣に「俺は知らないっス」と大仰なまでの勢いで首を否定に振った。

「いやあもう聴いた瞬間 俺は不審人物かっつーぐらい笑い転げたわ
マスタンがないマスタンげ! あいっかわらずお前の言動って飽きないよ
なあ あ、わんこを責めるなよコイツが洩らしたんじゃなくて 俺の情報網
ルートから得た話なんだから…それにしてもロイちゃんってばやっぱ色ん
な意味で最高だわ  傍にいたら絶対退屈はせずすむし…あ、駄目だまた
笑いが……クックッ…」
「うるさいっ!こっちへ来い!!」

 真剣な顔で自分じゃないとの合図を送り続けるハボックと、ぽかんと狐に
つままれた顔をしている部下達の表情から、ヒューズに自分の失態をバラ
したのはこいつ等ではないらしいと判断したロイは、顔を真っ赤にヒューズ
を個人執務室へと連れ込んだ。

「…とりあえず どこから聞いたのは訊かないでおく」
諜報活動を主としている部隊にいる親友を突き詰めれば、疑心暗鬼に
捕らわれる懸念のあるロイが、そう言って後ろ手にドアを締めてヒューズ
へと向き直る。
「ハッハッハッ 突き詰めて来ても構わないぜ?もっとも俺の好きな言葉
は『返り討ち』だが」
「…そんな事より何のようだ 見たところ今日は手ブラなようだが」
「んー?そうか俺がマイエンジェルの写真を持っていないのを残念がって
いるのか安心しろ 先週のエリシアちゃん初めて靴を自分で履いた記念
ショットならここに……」
「いらん!そうじゃなくて何しに来たかと訊ねている!」

「まあ冗談はさておき 一応俺も勤め人だからな ただ遊びに来た訳じゃ
ねえよホラ預かりモン」
 胸ポケットから写真を取り出すフリをしていたヒューズが、同じ場所から
封筒を取り出しロイへと手渡した。

「一応 機密系なんで直接手渡しに…ってのは まあ名目でお前さんの
奇行は悩み事があるときだからな なにかあったのかと顔を見に……でも
ブフッ…マスタンげはねぇよなあ……」
「…悩み事聞いてやるついでに 私の発言をからかいに来たのだと本音を
告げたらどうかね」
「ま、そっちもあるけどな 一応言ってみな聞いてやるから」

クックッと声なく肩を震わせるヒューズに、蹴りを入れたロイは今更ごまか
しても仕方がない相手だと、どかりとソファに腰を落とした。