酔いまかせ/下


「…アンタね 幾ら俺とかが相手だからってそんな無防備晒しちゃ
駄目でしょ…襲われますよ」
「襲うって …どんなふーにだ」
白いシーツが気持ちよくて、私の靴を持ったまま心配してくるハボ
ックの様子がおかしくて、上機嫌な私はえへへへへと笑う。

ハァと聞こえよがしな大きな溜息を吐かれたと同時、自分以外の重
さを受け止めたベッドがギシリと揺れ、かさついた大きな掌が力強
く私の手首を握って枕へと押し付けた。

「……こういう風にっス」
「む……これぐらいで 参ったをいう、ロイ・マス…タ…ングでは
……ない…ぞ…」
困った、重い…でも圧し掛かったハボックの熱は温かで気持ち良い
…とろとろと思考が溶けてゆき、睡魔が全身を支配し始める。
「大佐…?たーいさーーっ コラ危ないって言ってる最中で寝ない
で下さいよっ」
耳元での叫びすら、声質が良いからか眠りへ誘う子守唄のようだ。

「…ん……寝て…ない……」
「……嘘ばっかり もう起き上がれないでしょ?」
「…ん〜……起きて…る…」
「……起きてるって言うなら 俺の手を解いてみてください…ほら…
できないっていうなら…ちゅーしますよ」
――ちゅーの一つで、この気持ちよい睡眠に誘われて良いのなら
安いものだ。…それに相手は嫌いな奴ではない、むしろ気に入って
いる者のひとりで……いかん…もう何か考えるのもめんどくさい。

「ん〜…」
「…しますよっ 大佐聞いてます!?」
「…ぅん…」
「……ああっもうっ!俺だけのせいじゃないっスからっ」
ハボックの身じろぎする気配と、軋んだ音。
強いアルコールを飲んだときに感じるのと同等の熱が、乾いた唇に
重なった。
…そういえば、今のと同じ会話を昔したような記憶があるな。
息苦しさを覚え、喉奥でくぐもった小さな抗議を洩らすと、身体の
上にあった重みは慌てた様子で起き上がった。

「す、すすす すみません俺っ…!」
「ん〜…お前……ヒュー…ズと…同じことを…する……」
「…って!大佐!? えっ!ちょっと寝ないでっ たいさっ!今の
発言聞き逃せないんスけどっ…!?大佐ってばっ」

もっともアイツは寸止めで、実際に口接けは行わなかったがと続け
ようとしたが、…もう限界だ。
喋るのも面倒で、酩酊した脳はいいからそのまま眠ってしまえと命じ
てくるのだ、頼むハボックもう…寝させてくれ。


翌朝、私は薄いカーテン越しの朝日で爽やかな目覚めをしたのだが
横に居たハボックは、少し血走った目をしていた。
どうもコイツの眠りは浅かったようだ、私が寝台の幅を取ってしまった
からだろうかと、頭を下げるが、何故かハボックの憤然とした表情は
そのまま、それは問題ではないと告げる。

「…私がベッドを独占したから怒っているのではないのか?」
「ああもうっ!寝ぼけ眼でそんなかわいく小首傾げたりしちゃ駄目
でしょう!そんなのはどうでもいいっスから!…ここに座って!!」
バンバンとハボックの目の前を掌で叩き示され、正座で私の酔い方
について延々と説教されたのは、絡んだ覚えも吐いて汚した記憶も
ないのにと、今もって納得がいかないでいる。