四月一日


「俺 アンタの事ホントは大ッキライだったんスよね」
フゥーと長くタバコの煙を吐き出したハボックは、壁に寄り掛か
り軽く肩を竦めた。

「アンタ…とは私のことかハボック…?」
泣きそうな子供のようなロイの表情に、ハボックの胸がつきりと
痛む。
だが、一度言葉にしてしまったものは取り消せぬと、自らを鼓舞
し、それなりの日頃の恨みつらみをたまには晴らさせて貰おうと
続けた。
「そうっスよ 威張り散らかしてるし人に面倒押し付けるし」
嘘だ。上層部お偉方の面々に比べたら、のロイの我侭など可愛い
ものだし、本当に頼って欲しい面倒ごとは一人で片付けようと
してしまうことを案じてばかりだというのに。
「ああそれは今も変わらないから『だった』なんて過去形じゃ
なくってキライだと現在形にすべきでしたかね?」

ハボックの台詞が吐かれる度に、ロイの顔つきは少しずつ悲しみ
を増していった。
「だから…私をからかって…好きだと言ったのか…?」

唇を噛み締め俯き、肩を震わせるロイを見てしまっては、そこが
ハボックの限界だった。
「すみません!嘘っス!!」
壁にもたれていた体を起こし、慌てた様子でハボックは小刻みに
震えるロイ駆け寄る。
「えっと、あの、今日は四月一日なんで…!だから、それで…」
「お前は…そう言って…二重に私を騙そうというのか…?」
「え、二重って…」
「アエルゴとの調停にともない 相互理解のために各風習や習慣
を実体験してみようという話になったのは知っているな?」

知っているなと断定的な疑問文で聞かれてしまっては、回覧書類
や文書をほとんど読まず次に廻してしまうことが多いハボックと
しては『知りません』とは言い辛い。
「はぁ…まぁ…」
後頭部を掻きながら、曖昧に返答するとロイの眉根は更に寄せ
られ、ハボックと視線が合わぬよう顔を背けられた。
「ならば…やはり嘘だといって私を騙そうとした訳か…」
「えっちょっ…!待ってくださいっ 俺はさっきのがエイプリル
フールで調子に乗って、大佐をからかおうとしただけでっ!
それを嘘だと言って二重に騙すって…意味が…」

自分でも何を言っているのか解らなくなっているが、とりあえず
誤解を解こうとハボックはひたすら弁明をするが、ロイの表情は
浮かぬままだった。
「アエルゴとの時差を考え 今年からはエイプリルフールは
世界標準時間に合わせて行うと発表があったろう…つまり我が
アメストリスでのエイプリルフールは午後3時から…だ
だがお前は狙ったように、この二時半に言って来たな 私を疎ん
でいる…との本心を言いたいがために…」

「……えっ………!いやっ待って……ちがっ…」
「もういいっ!すまなかったハボック お前をそこまで追い込ん
でしまったのは私のせいだっ!」
顔を掌で覆って、呆然とするハボックの横をすり抜け、ロイは
駆けて行った。

「そんな…俺……」
そんなつもりはなかった。ただ、ちょっと驚かせて、嘘ですよと
告げて、からかいたかっただけなのに。
とんでもない事をしてしまった。
ギリと唇を噛み締め、ハボックはロイの後を追った。

中庭でようやく追いつき、ロイの手首を握り捕まえる。
「離せっ…」
「すみません…っ大佐 俺、勘違いして大佐に酷いことをして…
許してなんてとても言えた立場じゃありませんが せめて謝らせて
下さい」
ハボックの胸元で、顔を上げず首を振り続けるロイにハボックは
泣きそうになった。

「土下座をしろというならします!すみません俺…一体どうやっ
て償えば……」
「今、言っていることは…嘘じゃなく…本当か?」
「はいっ エイプリルフールの実施がずれたなんて知らなかった
んです!全部冗談のつもりで…!」
「償って…くれる…のか?」
「はい 何でも言って下さい!」

それからツラツラとロイが上げた10ばかりの条件は、正直ハボ
ックにとってはキツい物も含まれていたが、これで許されるなら
安いものだ。
全てを承諾したハボックに、ようやく顔を上げたロイは淡く微笑
み「嘘ではないな」と念を押した。

その条件の一つに、今から二時間サボるからお前が中尉の目を
ごまかせというのが含まれていたハボックは、それでも許された
喜びを持って執務室へ戻った。
「おぅ帰ってきたな交代の時間だ俺はメシに行くぞ…大佐は?」
ハボックを見て、書類をトントンと整えたブレダは立ち上がり
ハボックの背後を見た。

中尉だけでなく、他の奴らにもごまかしておけって意味だよなと
ハボックは知らないなと、短く告げて話題を逸らす。
「俺さぁ今年からエイプリルフールが時間ずらして実施するって
知らなくて大失態やらかしちまったよ」
「……何のことだ?」
「何だよブレちゃんまで俺が知らないと思ってもう3時になった
からそれもエイプリルフールのネタだろ?」
苦笑するハボックに、眉を顰めたままのブレダは
「いやマジでお前が何を言ってるのか解んねえよ」と返した。

「…えっ…アエルゴと合わせて…エイプリルフールを…」
「何の話だ」
「……ひょっとして 俺 騙され…た?」
「誰だか知らんが面白い嘘だな 今度俺も誰かにやってみるわ」

ひらひらと手を振って、食堂に向かうブレダをハボックは呆然と
見送った。
今思えば、あの震えも顔を俯けた様子もロイの笑いを堪えたもの
から来ているのだ。

「ちくしょーーーーー!大佐のばかーーーーーーっ!」
遠くから響く、負け犬の遠吠えをほくそえみながら聞くロイは
仮眠室の毛布を頭から被って、眠りに入った。

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エイプリルフールにアップしようと書いたのに、あほなTOPページ作成でこちらのUPを
忘れておりました(笑)