未完成な感性

「5年後の流架ぴょん めっちゃ美少年やったなぁ」
元の小学生姿に戻った蜜柑は、先日飴を舐めて5年後姿になった時の
事を思い出していたらしい。
どことなく夢うつつな蜜柑の様子に、言葉より先に新たな発明道具で
ツッコミを入れてきた蛍が、理由を尋ねれば返ってきたのはこの台詞
だった。

「…まあね」
自身が美少女であるためか、他人への好意の指標が見掛けであまり
左右しない蛍は、それでも先日の5年後流架バージョン隠し撮り写真
の売上げを思い出し、同意をする。
(余談だが、見掛けを判断基準にしないと言いつつ蛍のお気に入りに
美形が多いのは、…それは単に好みの問題だと本人談)

「せやろっ!?髪はサラサラ金髪 きっれーな肌で身長も伸びて目ェも
ビー玉みたいに綺麗やったしかっこ良ぉなっとったし!あれやったら、
あんのムカつくレオなんかよりよっぽど テレビとか映画とかで活躍でき
る思わへん?…そうなったらウチらあの流架ぴょんの友達とか言って…」
「おい ブス」
拳を固めて熱弁を振るう蜜柑の後頭部に、容赦ない本の角攻撃が加え
られる。
「誰がブスやっ…!?って違う!痛いっ何するねんっ」
うっすらと涙目で振り返る蜜柑の目に、常に変らぬ無表情の棗と困り
顔の流架が映る。

「流架の夢を知っていながら勝手なことをぬかすんじゃねぇ」
憤る蜜柑に返されたのは、ご尤もの道理。
「うっ…た、確かにそうやけど…」
「そうよ蜜柑 それに彼の性格で芸能界なんて生き残れると思う?」
この場合問題にすべきは、いきなり後頭部に加えられた暴力であるか
と思うが、単純な…もとい純粋な性格である蜜柑は、正論には弱い。
「……性格で言うなら棗君なら乗り越えられそうよね」

蛍の言葉に、遠巻きにやり取りを見守っていたもの達を含め視線が棗と
流架に集中した。
「えーっ芸能界は顔だけでもあかん思うよっ!?まあ棗やったら図々しさ
とかふてぶてしさとかは心配あらへんけど」
聞いている方が身も凍りそうな発言に、氷点下の一言が教室内で響く。
「………ドブス」
「なんやとーっ!?訂正しろウチはブスちゃうっ!」

「あの…今井 とめないと……」
おろおろと棗と蜜柑を交互に見る流架に、蛍は変らずの無表情だ。
「私も5年もたてば、ちゃんと美女だから」
「えっ…うん」
脈絡のない蛍の言葉に、思わず頷いた流架はようやく蛍の真意が解る。

…つまりは、蜜柑がひたすらに流架を称えていたのが蛍にとって面白く
無かったということだろう。
蜜柑とつきあうのには、当人の鈍さを乗り越えてもこの小姑の相手が
待ち受けているのか……。

止める様子の無い蛍を見つつ、途方にくれた流架はやはり黙って横に
立ち尽くしていた。