欲しい言葉


素直じゃなくて意地っ張りで、まっすぐ前ばかり見てるから足元を
見てなくて危なっかしくて……。
指折りで数える俺の言葉を、手で制してきた大佐の顔には『お前が
言っているのは誰のことだ』の見えない文字。

「勿論 アンタのことっスよ」
間違えの無いよう、きっちり指で対象を示して答えれば『私か?』と
確認のように自分を指差す大佐は、驚いた表情で少しかわいい。

「私は限りなく素直で慎重でしっかりしている」
「ないない してない」
真顔の大佐に、こちらも真顔で大ぶりに手を振って返答すれば本気で
わからないって顔してる。

「ねえ大佐 俺を愛してるでしょ」
「………お前が何を言っているのか先ほどからまったく理解できん」
――そっぽを向いて、平静な口調で話そうとしていますけれど頬が赤ら
んでいるって自覚してます?
「じゃあ嫌いなんスか?」
わざとへこんだ顔をして、しょんぼりしてみせれば慌てて
「そんなことは一言も言っておらん!」
そうやって返してくれるのってめっちゃ愛だと思うんですが。
大佐は好きでもない相手に、絶対そんな態度見せませんって。

そうだな想像してみよう、嫌いな相手にはどう返すか。
真顔で「バカか」と一刀両断、よくってわざと相手のカンに障る笑いを
浮かべ「ああ そうだな」って鼻で笑って返しません?

「あれ?大佐どこ行っちゃうんスか」
俺を置いてスタスタ先に歩いていこうとしてるのは、そのさっきより
紅くなった顔を隠す為っスよね―勿論、これを言葉にすれば拗ねられ
るだろうから、声に出さずヌ追い駆けようと大佐の方を向けば、足元に
何もないのにつまづきかけた、大佐の姿。

忠犬の反射神経で、駆け寄って支えたら小さな声で『すまん』と呟か
れ、何となく嬉しくなってしまう。

「ほら やっぱり足元見てないし」
抽象的な意味合いでの、未来と現実への展望というの表現したつもり
だった、最初の『大佐は足元を見ていない』の言葉は、今そのままの
状況を指す形になってしまっい、大佐は言葉に詰まる。

受け止めた大佐がバランス崩したままで俺の腕の中にいるのを幸い、
そっと抱き締める形に変えてみた。

…大佐は嫌いな相手に、大人しく抱き締められてなんていないよね?
言葉で強気に出てみて、ひとつひとつの態度で確認してもたまに大佐
の言葉が欲しくなるんだ、ねえ言って?俺の言葉の通り大佐は素直
じゃないだけで俺のことがスキだって。


俺の腕の中で、口をパクパクさせて一生懸命言葉を考えてる大佐が
やっぱり可愛くて。無理に言葉を貰わなくても、こんな表情を俺だけ
に見せてくれるなら、それはそれで悪くはないかと思ってしまう俺は
……やっぱり大佐にどこまでも甘いらしい。

仕方が無いかと諦めて、抱き締めてた腕を解く瞬間に小さく聞こえた
「好きだ」の言葉は、俺のすべてを支配するぐらい重くて大事にしたい
喜びをくれた。