その身に消えぬ私の痕を 


今の自分の笑顔は強張っていないだろうか。
カラカラに乾燥した喉からしぼりだした強がりは、ハボックの耳にどう
聞えているのだろう。
ロイは自分が縋る目になっていないよう、祈るばかりだった。

ハボックの優しかった眼差しは迫力を醸し荒み、ロイを視線だけで
束縛する。
片目を負傷し、もう傍には置けぬと突き放した部下。
自分の近くにおらずとも、どこかで幸せに暮らしていてくれればいい
と非情なフリをして切り捨て、縁を断ったはずだったのに。

最近になって、ことごとく軍部の作戦の裏をかく凄腕のテロリストが
現れるようになったとの要請で、北部近い箇所に一時派遣されたの
がロイだった。

長身・武器の扱いに長け、蒼瞳に眼帯、少しくすんだ金髪の持ち主
――調べれば調べるほど、該当の人物が確定されるようで、ロイは
自分の予想が外れることを願ったが…やはりそれは甘い感傷で
しかなかったようだ。

「私を恨み薄情者とののしりにきたか?」
肺をまるで搾られているかのように呼吸一つするのも苦しい。
ハボックに恨まれても、嫌われてもの覚悟をしていたが自分が原因
でこの男が道を踏み外したとは、大きな計算違いだった。
緊迫した空間で自分の声が震えぬよう目の前の男を睨めば、ハボ
ックは酷薄な笑いを浮かべた。

「アンタが俺のためという名目で俺を切り捨てたのは解ってますよ」
「…ならば……」
「何故と?簡単だ 俺を捨てた大佐殿は俺を忘れて目標に猛進して
いくだろう?…それが許せなかった ヒューズ中佐が死んでアンタ
に永遠に刻まれたなら俺はアンタに殺されて永遠に俺を忘れなく
させてやる」

声を詰まらせ、ゆっくりまばたきするロイにハボックが大股で近寄り
その手袋をしている腕を取った。
「俺があんたが探してるテロリストだ …ほら焔の錬金術師殿
おあつらえむきにもう手袋装備済みだ…殺せよ」
なに、を――何を言ってるのだこの男は。
何かを言おうとしても、言葉が出てこない。
唇も舌も、喉もなにもかもが乾いて貼り付いてしまったようだ。

「お優しい大佐殿は かつての部下を殺すなんてできませんか?
…だったら理由を作ってやるよ」
抱きつくように腕を廻してきたハボックが、雄の臭いを滲ませ薄く笑う
とその傷だらけの指をロイの襟元にかけ、一気に布を裂いた。

驚愕と混乱で呆然とするロイに、ハボックは熱い吐息と囁くような呟き
で「愛してますよ ロイ・マスタング」と告げた。

獰猛な口接けは、ロイに息をすることすら禁じるように全てを舐め
舌先を絡め、支配する。
「んっ……」
「ああ 可愛い声っスね 想像通りだ」
なにを、どう想像していたというのだ。可愛いとは何のつもりだ。
元部下に弱みを握られたかのようで、ロイが身をかわそうとしても
腰に廻った掌は、がっしりと力強くて離そうとしない。

行為の最中に荒っぽさはなかった。だがどこまでもロイを探るように
その指はロイの全身を辿り、反応を引き出すようにあちこちに舌を
這わせ、ロイが啼いて懇願してもハボックはその反応が嬉しいように
目を細めるばかりだった。
愉悦の波にたゆたうロイの疼きを、灼熱の剛直が焼き尽くす。

「あっ……もっ……っめ……やぁ…」
舌足らずに悲鳴にも似た嬌声を洩らすロイに、体内に埋められた
ハボック自身が一層の嵩を増した。
「――部下だった頃から、俺は何回もアンタを犯すとこ想像してた」
「もぅっ…やめ…ああっ…!」

陶酔感でなにもかもがわからなくなる恐怖からの懇願と、今まで知ら
なかった喜悦からの甘い痺れ。それでいてハボックの言葉ははっきり
とロイの耳奥に届いた。
涙で眦を滲ませ、信じられぬと睨むロイをハボックは更に貪欲に
むさぼり、次の言葉を封じ愛撫を再開した。


ロイが目を醒ました時、ハボックは既に姿を消していた。
破られた制服の代わりにとでも言うのだろうか、ロイにとっては一回り
以上大きな毛皮の縁取りがついたコートが掛けられていた。
気を失う寸前に聞えた、ハボックの耳に染みるような低い声。

「俺を殺せないなら……今度会う時にはアンタを攫っていきます
攫って、閉じ込めて、俺だけのものにして…もう誰にもアンタを見せて
なんかやらない」

(――ハボック…!)
どこで、自分は間違えてしまったのだろう。望んだのは、彼の幸せ
だったというのに。
泣きたかったけれど、乾ききった網膜はもうロイに涙を許してくれず
眩んだ意識はゆっくりと再び暗闇へと包まれていった。

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もこ様の漫画からの世界観妄想話です
もこ様の作られたピンキーを絵で見たい!とお願いしたら描いてくださりその後漫画を強奪
という図々しい連鎖でお宝GETさせて頂きました
ロイにゃんが伍長バージョンのいでたちをするとドMなのにハボが同じスタイルに
なるとドSの言葉がツボで…!
ああ、でも言葉責めや服の上から弄るは自分で言っといてクリアできなかったです
すみま…(笑)