事情を聞いた花月は、夕飯の準備をしながら少し考え込む。
(十兵衛の性格は、…確かに接客向きじゃないよね)
率直でウソが付けない・お世辞がいえないのは
彼の美点であり、自分が大好きなところではある。
だが、誰でも社会に出ればそういった軋轢に悩むものであろう。

「そうだ! 十兵衛ほんの少し酔っ払ってみたらどうかな?」
「酔う?」
「うん 酔うと無口な人が滑舌になることは多いって言うし…」
「…どうやって?」

そういえば、十兵衛は『ワク』であった。曰く、ザルより更に底なし。
日本酒など水のごとくに幾らでも飲むし、それほど
好みで無いらしい洋酒でも酒豪レベルである。

「…チャンポンっていうのは、効くらしいよ」
仕事柄 期限が近しい酒を、店長が譲ってくれるので
食器棚には何種類課のお酒が並んでいる。

「じゃぁ 混ぜてみようか」
酒に疎い花月は、ランダムに選び混ぜ合わせる。

「はい…飲んでみて」
「あぁ」

一杯ではそう効かないだろうと、そっと様子を伺う花月だが、
十兵衛はうつむいたまま反応が無い。
「…どう 効いてる もう一杯ぐらい飲んでみる?」

返答が無くどうかしたのかと、そっと近寄った花月は
唐突に強い力で十兵衛の腕の中へと、封じ込められた。

「じゅ、十兵衛!?」
「…悪い子だ 俺を酔わせてどうしたい?」
「えっ 本当に酔っ払っちゃったの!」
「…俺はいつでも 花月の美しさに酔っているさ…」
「へ、変だよ 十兵衛 落ち着いて!」

傍から見れば、落ち着いていないのは花月であるが
背後から伸びた手が首筋やら耳朶やら、皮膚の薄い個所を狙って
攻めてくるのだから、慌てない方がどうかしている。

暴れるわけにもいかず、何とか周囲に抑制力になるものがないかと
見回したところ、自分が混ぜ合わせた酒数種が見えた。
テキーラ・泡盛・ブランデー・アブサン
…酒に詳しくない自分でも知っている、強アルコール品ばかりだ。

(…もう少し瓶の名前ぐらい確認すればよかった…)
後悔しても後の祭りである。
十兵衛の酔いが醒めるまで1時間。慣れぬ十兵衛に、
さんざ苦労をさせられる花月であった。

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十兵衛はワク 俊樹は人並み 花月は顔色変えずクイクイ呑んで
いきなりばたっと倒れちゃいそうな印象。朔羅さんは赤い顔して
結構ウワバミそうかな(笑)