なにか楽しいことをしたお客にプレゼントすると言った蛮と銀次のトレカもこれまた大好評で、
企画が狙ったように面白いように当たる鏡の店は、この上なく大繁盛をしていた。

そんな中、営業前のミーティングで、店長さんが切り出した言葉。

「今度、日頃の皆さんの頑張りに敬意を表して、皆で温泉に行こうと思うんだけど、どうかなぁ?」

温泉か?また何か企んでいるのか?と、状況を飲み込めないホスト達で店内はざわめいている。

「いやだなぁ〜皆、そんな風に疑いの眼で見ちゃって。」
クスクスと笑いながら、本当に今回は、慰安旅行だと繰り返す店長。

「なんだか、いつもなんか目論見があるみたいじゃないか。信用ないなぁ〜」
なんて言いつつ、鏡はいつものように眼を細めて笑っている。

「随分、皆さんの働きによって、このお店も評判になってきたからね。今回は掛け値なしの心からの御礼!
お金は天下のまわりものだから、こうやって循環させないとね。
もちろん、交通費、宿泊費用もこっち持ち。あ、1人くらいなら同行者連れてきていいからね!」

「うわあああぁい。ただで温泉だよ!蛮ちゃん!」
真っ直ぐな神経しか持ち合わせていない銀次がジャンプして大喜びだ。
対照的に蛮のほうは、あいつが何か企んでないわけがない、と素直には喜べない様子。

一方、笑師は、同行者を連れていってもいいと言われて、亜紋のことを思い浮かべていた。
亜紋は特異体質のため、あまり外へは出かけられないが、温泉なら平気やろ〜とノリノリである。

十兵衛も、いつも心配ばかりさせてしまっている花月をたまにはゆっくりさせてやりたいと、
温泉につれていくことを決めた。


慰安旅行当日。
誰もが、俺の行いがいいからだ!と、口々に言い合うほどの、快晴!
雲ひとつない、青。

けっこうな人数の1泊旅行なので、バスを1台チャーターしてある。
もちろん、運転者とガイドつきv

ホストの慰安旅行と聞いて、今ではさほど珍しくもなくなった女性ドライバーが名乗りをあげた。
続々と、やってくる私服のホスト達。
店では、びしっとスーツできめている彼らだが、それぞれ各々のファッションセンスもなかなかである。

女性ドライバーもガイドさんも、表では平静を装っているが、内心はあの人が素適、
この人も、などと品定めに余念がない。

そんな中、花月を伴って筧十兵衛もやってきた。
それを目聡く見つけて、銀次が駆け寄ってくる。

「わああぁい!カヅっちゃんも一緒なんだ!!嬉しいなぁ〜!一緒に温泉入ろうね〜v」
その言葉で、顔面蒼白になった男の横で、
「はい!銀次さん!」
と、満面の笑みで答える花月。

しまった!!!と、思っても後の祭り。
温泉に連れていくってことは、イコール温泉に入るということだ。
花月の裸体が、他の男の眼にさらされる!
なんという愚かなことをしてしまったのだ。

あっという間に他のホスト達と仲良くなってしまっている花月を尻目に十兵衛の心は深く深く沈んでいった。
今日の晴天と反比例するように。

バスの中は、笑師を筆頭に大盛り上がりである。
普通に考えると、隣にいる人間の声も聞き取れないくらい大騒ぎしているのだから、
バス会社の人にとってはいい迷惑なはずなのだが、ガイドの隣には鏡が座り、ずっと話相手をしていた。
鏡のご贔屓さんが聞いたら、卒倒してしまうような話だ。

「こんなうるさい連中で申し訳ないね・・」
この喧騒の中、聞こえるように言うには、相当近づかなくてはいけない。
普段あまり男性には縁のない職場のため男性慣れしていない上に、鏡のすっとした美しい顔がすぐ側にある。
ガイドは舞い上がりっぱなしで、後ろなど全く気にならない様子であった。

一方、運転者の女性はその様子にかなりご立腹だったが、休憩をとったパーキングエリアで、
鏡に労いの言葉をかけられ、あっという間に機嫌は復活を遂げた。

1人深海へと沈んでいく男を除いて、かなりなテンションの男達を乗せてバスは温泉宿に到着した。
ずら〜っと女将と、仲居さんのお出迎え。
100人程度の宿泊宿であったが、ホストの数は、総勢30人。
どうやら、鏡が貸切にしてくれたようだ。

バスから降りてくる、多種多様な美男子に、女性従業員は色めき立っていた。

「騒がしい連中ですが、よろしくお願いします」
ホストなど、見かけだけで中味はちゃらんぽらんなイメージがあるが、
店長のきっちりとした挨拶に益々好感度が増したようだ。

「いいえ〜お待ちしておりました。どうぞどうぞ」
心なしか頬をあからめ、声が上ずる仲居さんたちに促され、ホストはそれぞれ各々の部屋へと移動した。

「わ〜〜〜。すっごいお宿だね!ね〜お部屋にマッサージ椅子あるよ」
楽しそうに眼を輝かせている花月に比べ、隣の十兵衛の眼は腐った魚のようだ。

「ね、具合でも悪い?バスの中からずっとそんな調子じゃない?」
せっかくの旅行なのに、と塞ぎこむ花月を見ると、
気分が滅入っている自分をどうすることも出来ないのがなんとも歯痒い。

「来なきゃ、よかったの・・・かな・・・」
辛そうな顔で俯く花月を衝動的に十兵衛は抱き寄せた。

「すまん・・・」
花月の体温を感じながら、十兵衛は謝ることしか出来ない。
状況が理解できず、十兵衛の腕の中で花月は十兵衛の顔を見上げた。

「俺は・・・器の小さい男だ、花月。お前が・・・・他の奴らに、その・・・」
一瞬の沈黙-

「お前の裸を他の奴らに見せたくないのだ!」

「あ・・・・・」
恥ずかしすぎて、花月の顔を見ることが出来ず、
視線と落として横を向く十兵衛の顔は既に温泉に入ったように耳まで真っ赤だった。

「なぁんだ!そんなこと?何事かと思って心配しちゃったよ!」
クスクス笑っている花月に、十兵衛が喰い付く。

「そんなこととはなんだ!そんな事とは!!」
真剣に怒れば怒るほど、怒っている内容が滑稽に思えてきて、おかしさがこみ上げてくる。
そんなことか!と笑ってはみたが、こんなことで、落ち込んでしまう十兵衛の想いが愛しい。

(嬉しいな、そんなこと考えてくれてたなんて・・)

「じゃ〜。皆が寝静まったときに、二人だけで入ろうか?ね?それならいいでしょ?」
素適な花月の提案にやっとほっとした笑顔を見せる十兵衛に

「やっぱり、笑ってたほうがかっこいいよ」
と、花月は優しいキスをした。


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うぉぅっなんて豪華な旅行… 右も左も美男子ばかりなんて
ぜひぜひその旅館の仲居さんになりたいです!
当たったバスガイドさんもいいなぁ めっさ美味しいお仕事で(笑)

ラブラブ新婚な十花夫婦もいいですが、漢っぷりのいい
店長にメロメロになりそうです〜。