そんなわけで、感謝祭は大盛況のうちに幕がおりた。

感謝祭は年に何回かしかない催しなのだが、この日だけは、
売り上げは通常の数十倍にも膨れ上がる。

もちろん、トップは、美堂蛮。
深海のブルーを讃えた瞳で、愛をささやかれた女性は、夢をみたような心地になるという。
別名、1分間のイリュージョニスト。
カッとなって破壊する癖がなければ、独立して店の1軒ももてるであろう。
しかし、破壊王の異名は未だ消えず。

2位は、天野銀次。
チョコのパッケージをあけたそばから食べていたので、誰からもらったか記憶にないが、
「すっごい美味しかったよ!」と微笑まれると、客はつい、それだけで幸せな気分になってしまう。
とりあえず、全部食べたチョコは美味しかったので、嘘をついているわけではない。
心底本気で言っているので、言葉からは偽りが感じられないのだ。
これも、人徳と呼べるのだろうか。

3位からは、どんぐりの背比べで、特に誰が秀でているわけでもない。
花月からの必殺メモと、騎士の衣装がウケて、十兵衛もそこそこの成績を収めている。
笑師ももちろん、関西のおもろキャラでお客の食いつきはいい。

しかし、そんなトップの美堂蛮よりも遙かに上を行く男がいる。
そう、言わずとしれた店長「鏡 形而」

彼は、今は、ホストを卒業して経営にまわっているわけだが、感謝祭は別だ。
特別に客の席につく。
感謝祭なるものは、いわゆる常連客のみの招待となるわけで、鏡と話をしたいがために
普段から足しげく通い常連客の仲間入りをする客も少なくない。
まぁ、常連といってもランクがあるわけで、普通の客には挨拶程度で、ひとこと、ふたこと会話をしては、
軽くグラスをかたむける、そんな感じ。
しかし、客にはたまらない至福の一時となるようだ。

(あの鏡くんが席についてくれた!)のだから。

鏡がまだいちホストだった時からのご贔屓さんとなれば、話は違ってくる。
普段は使用されない特別室。
店の奥に存在する、通称「鏡の間」
一切、サポートはつけず、マンツーマンの二人の世界。
そこで、何がおこっているのか、誰も知るものはいない。

ただ、わかっているのは、鏡が出てきたあとを片付けた従業員が見たもの。
プラチナドンペリの空瓶が山積みされていることと
常連客が支払う現ナマの札束が半端じゃないこと。

それでも、客は、次の感謝祭も・・・と争うようにお金を落としていく。

「あ〜〜〜あの密室で何がおこってんのやろ〜」
と、腕組みをするのは笑師春樹。

(わいもあんな風に、お客はんを幸せそうなお顔にしてあげたい)

「わいもでかい男になってやる〜〜!!よっしゃあああ!」
奇声のような雄たけびを残し、笑師はホストクラブを後にした。


「なぁ、でかいことってなんや?」
なぜ〜か、同じものを買ってしまったメイド服を着ながら、同じくメイド服姿の夏木亜紋に問いかける。

「さぁ、なんだろうね〜〜〜。とりあえず、今はホストなんかしてるけど、ゆくゆくは「お笑い」で天下統一!」

「そうや!あもやん!笑いは世界を平和にするんや!!」
「あ・・・・・・・」

そういいつつ、何か思いついたようである。

ごにょごにょ。
亜紋の耳へ、耳打ち。
「ああ!それ、いいかも!」
「せやろ!」

何か名案を思いついたのか、二人はひしっと腕を組み合った。


次の日、花月はふと、いつもの買い物ルートを通っていた。
「あれ?こんなとこにこんなのあったっけ?」

見上げると、少し斜めになった看板が眼に入る。

「お笑いメイド喫茶・・・・」
いぶかしげに眺めていると、聞き覚えのある声がした。

「おおおおおおおおおおおおお!花月はん!!いらっしゃぁあい」

声の主を見てみると、いつものポニーテールではなく、
ツインテールにしたサングラスの男と、もう1人。

「え、、、笑師。と、亜紋くん?」

二人は、いわゆるフリルふりっふりメイドさんの格好をしていたのだ。
もちろん、ガーターにスカートエプロン。
そして、男ふたりのとびっきりの笑顔(プライスレス)。

(あ、亜紋くんは、なんかちょっとかわいいかも・・・)
なんてのん気にみていると、サングラスの奥の笑師の瞳がキラリと光った。

「か、花月はん。。。昨日、感謝祭があったのは、知ってますやろ?」
ちょっと声を震わせ、いつもと違う笑師の声のトーン。
なにかあったのかと、花月は聞き耳を立てる。

「たぶん、花月はんには言ってないと思うんやけど、昨日な、十兵衛ハン
。えらいでかい失敗しよってな。客がえらい剣幕で怒りはって。。
せやけど、安心しなはれ、この笑師春樹!身体はって十兵衛ハンのフォローしましたんや!!」

「え、そうなの。知らなかった・・・・・」
(十兵衛、職場のこと、なにも言ってくれないし・・・・)
笑師に悪いことをしたと、御礼を言おうとしたとき、差し出される一組のメイド服。
「今日は、そのお礼だと思って、これを着て、わいらと一緒に働きまひょv」

メイド服を着る・・かなり抵抗があったが、
十兵衛のことで御世話になったと言われてしまっては断れない。
渋々、承知し、メイド服に袖を通す。
「ど、どうかな、、これ。」
おずおずと恥ずかしげに現れたメイドさんに
「最強や!」
と、二人は、絶賛の嵐だった。

案の定、これが大ウケ。
(いひひ、儲け儲け)
花月の働きで、(お笑いコーナーは別として)売り上げと評判は上々であった。

それも何日か過ぎた頃。
お笑いメイド喫茶に現れたひとつの影。
お金の勘定をしていた笑師が
「お客さん、悪いけど、もう閉店でっせ」
と、嗜める。

が、返事はなし。
心なしか殺気を感じて振り向くと、そこに立っている男の凄まじい形相。

「ひいぃぃぃぃぃぃいいいい、じゅ、十兵衛・・・は・・ん」

嘘をついて、花月をこきつかっていたのがバレ、十兵衛の怒りは、最高潮に達していた。
「か。。堪忍や。ゆ、ゆるして〜なぁ〜〜〜」
笑師の声が、力なく、誰もいない店内に響き渡る。

「ひいいいいいいぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃいい」
裏新宿を飛び越え、東京都はおろか、日本列島全土を劈くような男の悲鳴。

笑師は、こっぴどく叱られ、
文字通りたっぷりのお灸を据えられることとなってしまったことは言うまでもない。

この後、一週間、笑師の大事なところが使い物にならなかったとか。



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よりどりみどりのホストの中、>別名1分間のイリュージョニストが
大層気になります。 蛮ちゃんが本気で商用口説きモードになったら
かっこよさそうだな〜 …問題は緊張モードが5分程しか
もたなそうな所でしょうか。しかしホスト蛮ちゃんになら、貢ぎたくなってしまうかも(笑)

メイドな花月はガードが大変そうです。旦那がんばれーっ!
絶対盗撮写真などが出回ってるぞ〜