「はい 今日は感謝デーだからね特別衣装」
常に裏がありそうな笑顔の店長が、差し出してきたのは
十兵衛の認識からすると『白い学生服にビラビラが
くっついた奇妙な服』であった。
「コンセプトはホワイトデーがらみで、
白の騎士…ま、十兵衛くんの趣味じゃないだろうけど
仕事と思って着用してね」
 
 着慣れぬタイプの衣装であったが、周囲の評判は上々であった。
「お〜そういうキッチリした服も似合うやん」
「うん なんだかストイックな印象だよね
お愛想が苦手な分 そういう衣装でって事で」

ホストを相手に、自分に都合良い夢は見ないとわかっていも
そこはそれ。甘い一時を求め、女性たちはホワイトデーに
店を訪れる。お返しなどは望まなくても、一言の言葉が欲しくて。
 
 笑師や銀次のように気軽に愛想を返せぬ十兵衛は、
せめてもと花月がくれたリストを、頭の中に
叩き込んでいた。
 包装紙、リボンの色、カードとチョコレートの種類、
名前があった場合はその名前。
 本来、十兵衛は医学を志していただけあって
頭脳自体は明晰だ。単に関心が無い事は切り捨てていた
だけで。今回は好意への感謝という前提があったので
(奥底ではわずらわしく思う気持ちはなくもないが)
客への応対は周囲が案じていた心配を、払拭する
程あざやかなものであった。

「私のチョコ、あけてくれた?」
無邪気に尋ねる客の一人は、十兵衛を多少なりとも
理解しているのだろう。食べてくれたかで無く、
あけてくれたかと聞く辺りが涙ぐましい。
「申し訳ないが、数多くの貰い物があったので
どれが誰からの分かわからない。…包み紙を
教えてくれれば、思い出せるのだが」
「あ、そうだよね 紙袋いっぱいだったもん
私のはピンクの花柄で、赤に金の縁取りがついたリボン」
 ここまで聞けば、あとはリストを思い出すのは
簡単だ。
「あぁ、綺麗な押し花のカードを同封してくれていた」
「そう それっ 嬉しい!」
会話を聞いていた、ツレも身を乗り出した。
「私のは、私の!?金の包装紙で黒のリボン!!」
「とても高級品らしいと聞いて、恐縮している」
「判ってくれたんだ …っうれしい!」

 …花月の喜ぶ顔さえあれば、どうでもよいと
思っていたが、自分の一言一言ではしゃぐ女性たちは
なかなか微笑ましかった。
 帰ったら、花月に礼を述べよう。
思いを馳せ、優しく微笑む十兵衛のその姿を
眺めた客たちは、超レアな表情を拝めたと内心で
ガッツポーズを取り、ホワイトデーを楽しく
過ごすのであった。

オマケ 「うーんアモやんとはチョコ交換したけど…ホワイトデーやっぱ
渡すべきなんかな」
迷いつつ、
歩いていた笑師が、足を止めたのは某パーティーショップ。
「これやーーーっ!」
 ウケを狙って、メイド服を購入して帰る笑師は、
やはり同じ事を考えていたらしい亜紋から、メイド服を
送られるとは想像していなかった。

「…俺ら、やっぱりソウルブラザーや!相棒」
「そうだね!エミやんっ!!」
 互いにメイド服を着てのノリは、傍から見ると
なんともいえない光景であったのは確かである。

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 俊樹祭りが続きましたので、今回は十兵衛のホワイトデーで。

 まったく関係ないのですが、ドンペリゴールド(60万ぐらい?)の
存在は知っておりましたが、この前はじめてドンペリプラチナ
という存在を知りました。100万円…(酒屋で買えば、もっと安い。
接客商売だと、ご祝儀の意味も含まれてるのかな)
誰が飲むんじゃそんなものと思いますが、年に1回ぐらい出ることも
あるそうで…夜の商売はすごいなぁと改めて思いました。