ピンポーンッ
 高めの電子音が響いた後、扉の向こうで
パタパタと駆け寄る音が聞こえる。

  大き目のスリッパなのだろうか、玄関の少し前で
音が止まったかと思うと、次に響いてきたのは
片足分だけの響く音。
「お待たせしました あ、俊樹」
 ドアを開けると同時に、にっこり笑顔の花月。
案の定スリッパは片足だけで、もう片方は途中で
脱げたまま素足だった。

 笑みが漏れぬよう口元を隠した俊樹であったが、
目聡い花月が気付かぬはずもなく。
「…何か おかしい?」
「いや…スリッパを履き直す時間ぐらい、来訪者も
待ってくれると思うぞ」
「え 違うよ ふ、普段は履き直すよ?
 でも多分 俊樹だと思ったから、こんな格好でも許されるかなって」

 …相変わらず、意図せず殺し文句を紡いでくれる。

「これ、この前のバレンタインのお返し」
「気を使ってくれなくていいのに …でも嬉しい ありがとう」
「じゃぁ」
 さりげなく金糸が施されたリボンで梱包された、
高価そうな箱。それを手渡すなり、踵(きびす)を返す俊樹の手首を
慌てて掴み、花月が引き止める。
「待ってよ そのまま帰っちゃうの?お茶ぐらい飲んでいってよ、ね?」

 見上げるように、上目遣いでのお誘いを断れる男がいようか。
本当にプレゼントを渡すつもりだけだった俊樹だが
気付くと長い時間を花月の傍らで過ごしていた。

「あぁ…もうこんな時間か 長居してしまったな
そろそろお暇(いとま)するよ」
 帰り支度に立ち上がりかけた俊樹だが、
不覚にも足の痺れにもつれ、花月の方へと倒れこんでしまった。

「す、すまない花月!どこも傷めてないか!?」
「うん…大丈夫… 俊樹のほうこそ、大丈夫?」

 確かに咄嗟に、腕で花月の体を覆ったので怪我はない筈。
ただ、倒れこんだ拍子で僅かに肌蹴たほっそりした首筋と
滑らかな肩が、露わになっていた。

 慌てて起き直すも、痺れと言うのは瞬時にどうにかなるものではなく。
再び、花月の上へと俊樹は倒れこんでしまった。
 花月の頭部や、腰を床へ叩きつけたりしないよう廻された
腕は、そのまま 抱きしめた形となる。

「ぁ……」
「か…づ、き…
…すまない まだ痺れがとれないようだ」

 嘘だ。自分の言動が、真実でない事は
誰より自分がわかっている。
 それでも、このぬくもりを手放せなくて。
 腕の中に納まるその感触に、現実感がなく思わず
更に強く抱きしめてしまった。

 力強い腕に戸惑う花月は、そのまま振りほどく事もできず
俊樹の瞳を見詰める。
「あの… 平気?」

 そのまっすぐな視線に我にかえった俊樹が、
暖かさの名残を惜しみながら、花月の後頭部を支えていた
掌をゆっくりと外す。

「…すまなかった」
「平気だよ どこもケガしてないし」

 俊樹の謝罪は、別の意味であったが勿論当事者は気付いていない。
甘さとホロ苦さに満ちた気分での、俊樹の帰路であったが、
それでもその顔は幸福そうであった。

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イラスト&シチュご指定 ささめ様 /文 葉月
ひゃっほーーぅと言う訳で、非花のささめ様昼メロご参加v
わーい久々の、昼メロゲスト参加ご希望嬉しいです!
セリフの一部は、シチュエーションご指定時のを
そのまま使わせて頂きました。

胸へと続く、ちらりと見える白い肌と滑らかな肩
とまどう花月の表情がなんとも堪りません!
ここまで据え膳でも、耐え切れちゃう俊樹不憫です。

ラストは本当は見詰め合うはず…だったのですが、
やましい気持ちが少しでも入ってたら、俊樹には
無理かなとちょっと変更させていただきました。

よろしければっ!またの!!ご参加お待ちしております!!!