ヘヴンの家で開催されるパーティのことを十兵衛に言ってみたのだが、返事は案の定「NO」。
正しくは「俺はいかん」、であったが。
ヘブンにその事を告げると、
「是非、お会いしたかったわ!」と非常に残念そうだった。

早速ヘヴンのパーティの準備をしながら、ケーキも焼かせてもらう。
「家もってくの?」
と、聞かれたが、近所の御世話になっている方へ、と答えると、それ以上は特に追求もされなかった。

パーティの下準備も無事終わり、明日本番を迎えるまでとなり、花月はヘヴンのマンションを後にする。
向かうは、俊樹の職場。
つまりはお米屋さん。

俊樹の働く米屋は、花月の家から頑張れば歩いていける距離であるが、
ヘヴンのマンションからは真逆の方向であったため、電車で移動することにした。
花月の手には、先ほど焼いた出来立てのケーキと、プレゼント。

この、俊樹のプレゼント選びはとても難航した。
あるとき、ふと立ち寄ったデパートは、バーゲンセールの真最中。
2月の下旬ともなると、ウィンドウにディスプレーされるのは、パステル調の柔らかい色の春物。

冬のものは、店のはじっこのワゴンへと追いやられる。
花月の足があるお店で止まった。
ワゴンの中から、取り出す、ふかふかの白いマフラー。
「わぁ、これ、かわいいなぁ。手触りがとってもいいし、温かそう!」
そう思いながら、触っていると、この店の方であろう店員さんが近づいてきた。

「そちら、すっごい手触りいいでしょう?もう残り3本なんですよ。もともと、この金額で売ってたものを、
今、半額以下でお売りしているんです。すごくいいものなんですよ」
と、提示して見せた金額は1万を越えていた。

なんで、1万以上もするものが、こんなにお安くなってしまうんだろう・・と不思議に思いつつ、
花月は、ふかふかの気持ち良い感触にはに勝てず、なんとなく3本購入してしまった。

「あ!えっと、2本は普通に包装してください!あとの1本はプレゼント用でお願いします!」

普通に包装されたものは自分と十兵衛のもの。プレゼント用のは、もちろん俊樹への誕生日プレゼントである。

「3人、おそろいになっちゃったけど・・いいよね。喜んでくれるかな」
移動する電車の車窓から外を眺めながら、花月はそう思った。


俊樹の職場を覗くと、金髪の頭が見え隠れする。
「俊樹!」

ふいに花月に呼ばれ、雨流俊樹はかなり驚いたようだ。
蒼い眼がまんまるになっている。

「ど、どうした?こんな時間に・・」

「どうしたって!ご挨拶だね!はい!プレゼント!」
花月は、リボンのついた包み紙とケーキの入った袋を手渡した。

「あ・・・有難う。覚えててくれたのか」
俊樹は、顔を紅くしながら、渡された贈り物を見つめている。

と、そのとき、背後から「帰ったぞ」と、声がした。

勢い良く入ってきたのは「米」と書いた前掛けをした中年の男性。
花月をみて、いらっしゃい、と声を掛けるところをみると、この店の主人なのだろう。
つまりは、俊樹の雇い主だ。

「あ、おやっさん、こいつ、俺の・・・・とも・・」
友達、と言いかけたところで、

「お?なんだ?これか?」
と、小指を立てるおじさん。

今時、そんな表現もどうかと思うが。
慌てた様子で、手をぶんぶん振って否定する俊樹。
そんなリアクションをとる俊樹を初めて見たかもしれない。

クスクスと笑っていると、店主はそんな俊樹にはおかまいなしで、話を進めた。

「や〜〜安心したよ。
こいつさ、こんなナリだろ?最初、ここで働かせてくれってやってきたときは、
俺は、驚いたね。外人だと思っちゃったからさ。
日本語で話しかけられてるのに、思わずハローなんて言っちゃってさ」

楽しそうに笑う花月に、おじさんはノリノリだ。

「それでもこいつは、いい男だからね。最近は、俺が配達に行くと、奥様連中ががっかりするわけよ。
あら!今日は、あの若い子じゃないの〜〜なんてさ」

言いながら、自分でもガハガハと笑う。
さらにおじさん劇場は続く。

「モテルわりには、全く女の影が見えないから、俺は、
もしかしたら、こっちなんじゃないかなぁ〜と心配したわけよ。」
手でシナを作ってオカマポーズ。

「でも、安心した!こんなべっぴんさんがね!これとはね!これ!」
またまた、小指を立てるおじさんに、花月も実は男性だと言うことをなんとなく言いづらくなってしまった。

そんなおじさんは、大いなる勘違いをしたまま、
「それじゃ、後はお若い者同士で。じじぃはドロン致します!」
と、これまた、今時なギャグをいい、機関銃のようにしゃべるだけしゃべってさらなる配達へと行ってしまった。

「全く、困った親父だよ・・」
そう言いながら、ぽりぽり頭を掻く俊樹。
「人のよさそうなおじさんじゃない!」
あまりの二人のやりとりのおかしさに花月の眼は涙で潤んでいた。

「そうだな・・・以前、ここに来たての頃、俺はバイクで横転してしまったことがあるんだ。米袋が破れてしまって
、配達にならないから俺は店に戻ったのだ。正直、怒鳴られると思ったよ。商品駄目にしてしまったからな。
だけど、おやっさんは、米なんかいいって。
米なら、いくらでも代わりはあるが、お前の命は1つだ!
無事でよかったって泣くんだよ・・」

参ったよ、あの親父にも・・・と照れくさそうに吐き捨てながら、俊樹は奥の部屋へと花月を案内した。
奥には、小さいが、6畳の和室があった。
テーブルの上にケーキを広げる。
俊樹は、棚から果物ナイフを取り出した。

僕がやると、花月が申し出たが、俊樹は断り、自分でケーキを切り出す。
が、不意にそのナイフは、俊樹の手から落ち、畳へと突き刺さった。
まさに間一髪、刺さったナイフは、俊樹の足から数ミリしか離れていなかった。

よほど驚いたのであろう、花月顔が真っ青になり、大きな眼はあっという間に洪水となった。

刺さったナイフをテーブルに置き、俊樹は花月の元へと歩み寄った。
「す、すまん。驚かせてしまったな・・・」
小さな肩を震わせ、手で顔を覆っている。
その手の間から零れ落ちる、、滴。
花月も・・俺のために泣いてくれるのか・・・・・
思わず俊樹の手が花月の肩にのびる。

(このまま、強く抱きしめて、どこか遠くへ連れ去ってしまいたい・・)
あいつの手の届かぬところへ・・・・・

震える手と衝動を辛うじて残っていた理性で押さえ、背中の後ろまで伸びていた手を花月の頭へと持っていく。
泣きじゃくる花月の頭をやさしく撫でながら、
「ありがとう」
一言だけ、俊樹は言った。


やがて花月も平静を取り戻し、家へと帰っていった。取り乱して泣いてしまったことを詫びながら。
俊樹は、午後の分の配達をするため、バイクを飛ばしていた。
以前、横転した地点にくると、否が応でも事故をした時の記憶が蘇る。
新宿へ来る前は、自分のために涙を流してくれる人間など皆無だと思っていた。
先ほどの花月の涙と、店主の姿を思い浮かべる。
(俺のために泣いてくれる人がいる・・・)
(今は、それだけでいいじゃないか・・・・)

それだけで・・・・・・

新宿は、温暖化のせいか、3月でも気候のいい日が続いていた。
そんな小春日和の温かい日には、まったくそぐわないマフラーを、
俊樹は風で落としてしまわぬよう、少しきつめに首に巻きつけた。


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お疲れ様でした〜 せっかくのネタフリを私が違うパスで
返してしまいましたため、ふーかさんにお話の
元筋を結局考えて頂いてしまい、失礼いたしました。

せつない俊樹が、ほろりと来ます。ふーかさんだけでなく私も
俊樹ネタが続いて嬉しいです。(特に本編が最終章不憫でしただけに。
最終回セリフがあっただけで嬉しいという彼の扱いに、俊樹
ファンは複雑心境でした)


…ところで ヨイお味出してらっしゃる店主さん
ルシファー様で想像した私は合っているのでしょうか