もうすぐ3月3日。
世間は、桃の節句で賑わうのだろう。
壁に貼ったカレンダーを見つめる花月。
「俊樹の誕生日だ・・・・・」

時々、お米を持ってきてくれるお礼したいし、都会に出てきて
知り合いもそんなにいない・・お互い助け合わないと。。。

そんなことを考えながら、花月は、なにかプレゼントを買って、
ケーキを持って行くことに決めた。
(プレゼントは、あとで、お買い物行こう。)

問題はケーキ。

生活用品が揃ってきたとはいえ、オーブンレンジなんか
まだ買える余裕などはない。
(オーブントースターならあるんだけど、
HONKYTONKで生地だけでも焼かせてもらおうか・・・)

HONKYTONKに頼みにいったシュミレーションを頭で想像してみる。

「あの〜波児さん、ケーキを作りたいんですけど、
1日だけオーブンを貸していただけないでしょうか」

「いいよ」と、波児。
問題はここからだ。
「わ〜〜〜ケーキ作るの!!いいないいなぁ〜俺も食べたい!」
と、絶対、銀次さんなら言うだろう。
すると、絶対2つは必要だ。
しかし、十兵衛と同じ職場にいる銀次のこと。
十兵衛に、このまえのカヅっちゃんのケーキ、美味しかったね!と、絶対言うに違いない。

「ケーキなぞ知らんぞ!俺は、食してはおらん!」
と、こうなる。

誰に作ったんだ?ってことになるから、この線は無理だ。
じゃあ、どうしよう。
当てなんかないしな・・・
やっぱりケーキが諦めて、プレゼントだけでも渡そうかと、新宿の街を徘徊する。

「俊樹、なにがいいかなぁ〜。」
風に揺れるブロンドの髪。吸い込まれそうなビー球のような美しい碧眼。
「元がいいから、なんでも着こなしそうだけど・・・」
などと考えつつ、色々物色していると、
「あら!花月くん」と、後ろから声を掛けられる。

振り向くと、これまた俊樹にも負けない、美しいブロンドの髪。
さらに、どばーんと目に飛び込む、たわわすぎる果実。
「あ!ヘヴンさん!こんにちは!」
金髪美女の名前は、ヘヴン。
HONKYTONKの常連客だ。
出入りしているうちに、顔見知りとなり、自然と話をする仲になった。

「ここで会うなんて奇遇ね〜」
純正な異国の血のせいか、とてもフレンドリーだ。
西瓜2個!と言わんばかりのバストの間で揺れる十字架。
「あ!ねえ!今、忙しい?」

俊樹のプレゼントを買いにきた、とはなんとなく言いづらい。
HONKYTONKで何度か話をするうちに、自然と自分の話などもしてしまっている。
一緒に住んでいる彼の話も。
「い、いえ、忙しくはないです」
そう答える花月に
「じゃ!私の家、近いからお茶でもいかが?」
と、ヘヴンのお誘い。

ね?と外国美女にウィンクをされると、日本人は断れはしないものだ。
そんなわけで、花月はヘヴンのマンションへ行くことになった。

裏新宿ど真ん中にある超高層高級マンション。
鍵をまわせば開く花月のマンションと違って、
ヘヴンのマンションはセキュリティが半端じゃない。
あるポイントに立つと、開くドア。
まるで魔法のよう。

「い、今、何したんですか?」
好奇心には勝てず、質問をぶつける。

「あぁ、これは、瞳の虹彩を認証するシステムよ」
指紋や瞳を認証して、特定の人間だと判断する、
ということをテレビでみたことはあるが。

「初めてみました・・・・」
ずんずんと上へ上がって行くエレベーターも花月には初めての体験。
ぷーんとにおう、独特の空気。
化学塗料の匂いだろうか。
名家の生まれの花月の家は木造で、今、住んでいるところももちろんそうだ。

(なんか、身体に悪そう・・・・)
嗅いだこともない窮屈な匂いにそろそろ限界を感じているころ、
エレベーターの表示は最上階を指し示した。

そして、部屋に入るのにも、あの認識システムが活躍する。

(はぁ、うちに帰るのにも、いちいち大変!)
これだけしないと安心できないような世の中になってしまったのかと、
花月は嘆かわしいような、なんか複雑な思いでヘヴンのあとに続いた。

部屋の中は、軽く18畳くらいはあるだろうリビング。
他にも何室かあるのだろう。

「広いですね・・・・」

「そう?」
ヘヴンはまったく気にとめてない様子。

それは普段ここで生活してるんだから当たり前のこと。

リビングにある白いヨーロピアン調で統一された家具の上にある写真立て。
その写真には、ヘヴンと、そして無精ひげを携えたダンディーな男性が写っていた。
胸元には、ヘヴンとおそろいの十字架。

「恋人・・ですか?」
恋人でなければ、写真を飾ることも、ペアで同じ十字架をしようともしないだろう、
とは思ったが、愚問としりつつ一応。

(そういや、自分の家庭の話はしたけど、ヘヴンさんのは聞いたことなかったっけ)

別にわざと聞かなかったわけではないのだが、ヘヴンのミステリアスな容姿もあいまって、
交友関係などの話は一切聞いたことがなかったことを思い出す。

「あ!そいつ?そうよ。恋人。柾っていうのよ。貿易の仕事しててね。今、ロンドンですって!」

「そうなんですか・・・」
それじゃあ、あまり会えなくてお寂しいでしょう、と切り出そうとしたとき、
ヘヴンの嬉しそうな笑顔が飛び込んできた。

「でもね!明日!帰国するんですって!!さっき連絡があってね!」
久々に会える喜びに溢れたご婦人の満面の笑顔。

(綺麗・・・・だな)
幸せは人をどんどん美しくさせる。
そして、そんなヘヴン眩しく見つめていると、自分まで嬉しい気分になっていくのを感じる。

「あ!そうだ!今度、パーティするんだけど、花月くんも来ない?
もちろん、旦那さんも一緒に!ね!
えっと、3月4日の予定なんだけど」

十兵衛、パーティなんて来たがるかしら?と、改めて考えてみると、
どうも首を縦にふる所は全く想像できない。
もし、万が一、参加したとしても、気の利いた会話をすることもなく、
はじに座って微動だにしないのが関の山。

「ちょっと彼・・あまり大勢でいるの好まなくて。。。
だけど、パーティするなら、僕ケーキ作りますよ!!
お1人じゃ準備、大変でしょうから、お手伝いします!」

しめた!このチャンスを逃す手はない!

案の定、助かるわ!と言ったヘヴンに、ケーキをもう1つ
多目に焼いてもいいかとお伺いをたてる。
3月3日にお手伝いに行って、そのままケーキを焼かせてもらい、
その足で俊樹の職場に行けば、4日に十兵衛がパーティに参加してもしなくとも、
気付かれる心配はないだろう。

なんだか、降って湧いた幸運。

十兵衛を騙すことに、多少罪悪感はあるが・・・・
(お米のお礼!ならいいよね・・)
と、自分に言い聞かせ、花月は俊樹の誕生日を祝うべく
密かに準備を進めるのであった。




----------------------------------------------------------------
俊樹の誕生日は、なんとも ふさわしいのだかふさわしくないのだかで
印象的ですよね。本家の集いも3/3はひな祭りで俊樹は
ほっぽかれてそれもまた、グレる要因だったりして(笑)
かづっちゃんのコクビ傾げた表情と王子様風にキラめいてる俊樹が
むっちゃ素敵です。
…ところでヘヴンさん 寒くないのでしょうか!? あ、室内空調も
完璧なんですね。いいなぁセレブ生活。 

誕生日ネタということでバトンを貰いましたので
そのまま描きたかったネタで行かせて貰いますv