沸騰しない程度に生クリームを温め、削ったクーベルチュールを
溶かし込む。クーベルチュールが溶けきったら、次はバター。
後は型に入れ、固まる寸前に彩りとして砕いたピスタチオを
散らし、冷蔵庫へ。

「これで あとはカカオパウダーをまぶせば
完成…と。今年は俊樹に銀次さん、美堂くんに、店長と
笑師… 随分と作んなくちゃ」

 客商売の十兵衛に、チョコレートを受け取らないでとは
言えないし、たとえ相手が客じゃなくても
女の子の思いがこもった物を、無碍には扱って欲しくない。
…ただ、それでもバレンタインのチョコを受け取るのは
一番のが自分であって欲しいとの願いをこめて、
フライングでチョコレートを作った花月。

 「えっと…十兵衛 今日一緒に食べたいものが
有るから、お腹いっぱいにしないで帰ってきてくれる?」

 チョコレートだけでは寂しいので、いつもよりは
豪勢にした食卓に、カカオフィズを使ったカクテルなどを
そえて一緒に夕食を計画していた花月が出勤前の十兵衛の背に
そっと声をかける。

「構わないが…改まってなんだ?」
「えっと…その、ちょっと行事モノで十兵衛と
一緒に食べたいなぁ…なんて…」

 一瞬怪訝そうな顔をした十兵衛が、カレンダーを眺め
即座に納得したように強く頷く。

「さすがだな、俺はつい日々の忙しさに
疎くなっていたが、花月は常に色々と気を配っているのだな」
「そんな事ないよ… それに、十兵衛は甘いものあまり
好きじゃないのに付きあわせてごめんね」
「いや 俺はあの微妙に甘辛いかんぴょうは結構好きだぞ」
「……干瓢?」
「恵方を向いて、巻寿司丸かじりだろう?
それとも 干瓢は入れない寿司なのか」

 慌ててカレンダーを見ると、今日の日付の下に
赤く小さな文字で「節分」

(よりにもよって今日ーーっ!)

「では 行って来る」という言葉の十兵衛を送り
慌てて酢飯の準備をし始める花月であった。

 ちなみに、フライングチョコレートはデザートとして
勿論添えるつもりである。

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最近は関東でもメジャーになってきた節分の日に
恵方を向いて巻き寿司丸かじりですが、全国規模に
知られてはいるのでしょうか。
 我が家は巻寿司+いわしの頭にヒイラギでした。

ちなみに一番上のは生チョコの作り方ですが、
節分前に作ったら確実にバレンタインデーには腐ってるかと
思います。