どうやら、この大きいクマを花月はたいそう気に入った様子だ。 「決めた!」 ふかふかのクマの首に細い腕を回しながら花月が唐突に叫ぶ。 「な?何を決めたのだ?」 訝しげに十兵衛が問いかける。 「このクマの名前!!十兵衛!!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・絶句。 「お、俺か?」 「そう!!十兵衛!」 にこにこと嬉しそうな花月に、それはやめてくれ、とは言いがたい。 「クマの十兵衛がいたら、十兵衛がいない時も寂しくないもの・・」 その言葉に十兵衛は、ハッとする。 俺がいない間、花月はずっとたった1人でこの部屋にいるのだ。 (寂しくないわけがない・・・・・) 十兵衛の今の職業の生活リズムにあわせているため、花月も昼夜逆転の生活を強いられていた。 自分の店の話をしては、(特殊な接客業のため)花月が不安がるのではと、 極力そういう類の話題は避けていた。 朝帰宅して、夕方前に起きる生活の中で、話題は必然的にテレビのワイドショーやニュースの話になる。 「最近、なんか物騒な事件が多いよね」 出勤前の食事をしながら、テレビに眼をやると、痛ましい事件のニュース。 そんなものばかり見ていると、ひとり花月をおいて出てゆくことが不安でたまらない。 「花月、毎日、口をすっぱくして言っているから、聞くのはうんざりだろうが・・ くれぐれも戸締りだけはしっかりな! 新聞の勧誘であろうが、なんだろうが、絶対にドアを開けるな!」 「クスクス、分かってるよ!もう十兵衛は心配性だなぁ」 笑って花月は答えるが、用心に越したことはない。 うざがられようと、耳にタコだと言われようと、十兵衛は、しつこいほど花月に注意を与えていた。 出勤の時間になっても、十兵衛は、後ろ髪をひかれる思いだ。 「じゃ・・・行ってくる・・・・さっきも言ったが」 戸締りには、注意と言いかけたところで、花月に制される。 「わかってるよ!大丈夫だから!いざとなったら、クマの十兵衛に守ってもらうから」 そういって、、ほら!といわんばかりにクマを突き出す。 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・) さらに絶句。 歩くことも話すことも出来ないただのぬいぐるみに何が出来よう。 あっけにとられ、何も言い返せないまま、仕事場に向かう。 いつもの日常。 最近は、十兵衛を目当てにくる客も増えた。 売り上げがあがると、もちろんその分のギャランティーも上がる。 日雇いでやっと食べていた頃よりは、数段、二人の生活にもゆとりが出来ていた。 (それは感謝すべきことなのだが・・・・) やはり、1人、部屋に置いてきてしまうのは不安だ。 花月が心配で、仕事にも身が入らず、今日は時間が経つのがやたら遅い。 それでも、やっと仕事を終えた十兵衛が家路を急ぐ。 チャイムを鳴らすと、パタパタと足音が聞こえ、ドアを開けてくれるはずなんだが、 今日は鳴らしても音沙汰がない。 「おかしいな、部屋に電気はついているのだが・・まさか!」 昼間、嫌な事件のニュースをみたばかりだ。否が応でも悪い想像が頭をよぎる。 「花月!」 合鍵でドアを開け、部屋へ入った十兵衛の眼に飛び込んできたもの。 すーすーと寝息を立てている花月。 そして、かたわらにはクマの・・・・俺。 珍しい光景だった。 いつも、眠ければ寝ててよい、と言っても絶対起きて待っててくれている。 髪を切った花月の寝顔は、長いときよりも幼く見え、十兵衛を昔懐かしい思いへと誘う。 十兵衛は、そっと、短くなった髪に触れた。 「ずっと、寂しい思いをさせていたんだな・・・・」 いつも、寝ないで待っててくれているのは、 仕事で疲れた俺を笑顔で向かい入れたいという思いが強いせいもあるだろう。 しかし、1人でいると不安で、寝付けないということもあるのではないかと十兵衛は思う。 (クマといることで、少しはリラックス出来ているのやもしれん・・・) 「クマの俺にも感謝せねばならぬな・・・・俺がいない時は花月を頼むぞ」 頭のはじっこで、俺はクマのぬいぐるみ相手に何を言っているのだ!と、不可解な気持ちになりつつ、 十兵衛は、こつんと、クマの十兵衛の大きなお腹を叩くのであった。 ******************************** かわいいかわいいかわいい〜 超なごみました! 花月は勿論ですが、十兵衛の表情と くまの顔付き!! すっごい好みな熊さん〜萌え〜っ (…何だか使い所を間違ってる気もするけど ひたすら可愛いです) 花月&熊を見守る十兵衛の優しそうな笑顔も、 私には描けない表情です、幸せ〜♪ |