「わ… 十兵衛、これどうしたの?」
 巨大な縫いぐるみを、花月に渡した十兵衛は、更に抱えていた花やら
リボンのついた箱やらを食卓へと置いた。

世間様が、クリスマス一色に染まり賑わう中、
今日の花月はほぼ一人で過ごしていた。
 寂しいが、接客という職種を選んだ十兵衛に、最重要イベント日を
休ませるわけにもいかないし、 かといって街中を一人で歩くのは…
もっと寂しい気分を落ち合う羽目になるだろう。

「…大体、十兵衛 今日がクリスマスって事すら
気付いてなさそうだもんね」
 テレビをつけても、クリスマス特集ばかりで、虚しくなった花月は
うたた寝のつもりで横になっていたのだが、いつのまにか眠っていたらしい。

 目が覚めたら、巨大なクマを抱えた十兵衛が、帰っていたのだ。
「…花月 すまなかった」
「え?」
「今日は恋人同士が二人で過ごし、御馳走を食べプレゼントを
する日なのだろう?…そんな日に、お前を一人にしてしまった」
 
 敬遠なクリスチャンが聞いたら、「貴方のクリスマス認識は、
間違っています」と眉を顰めそうな表現だが、単にイベントの1つと
思っているものにでも聞いたのだろう。
 実際、それを教えた客の一人は だから今一緒にいる私達も
仮の恋人同士みたいよねという遠まわしなアプローチだったのだが、
勿論十兵衛にはまったく通じていなかった。

 プレゼントを買おうにも、もう店も締まっている…。御馳走を探すにも、
店が締まった後では、やはり無理だろう。挙動不審になった十兵衛の様子を察した
店長が、救いとも言える手を差し伸べてくれた。

「じゃぁ、今日でウチのクリスマスイベントも終わりだしこれ、プレゼントに進呈するよ」
 軽く投げられたのはディスプレイとして、入口近くに座らせていた熊の縫いぐるみ。
「後は、お客さんに頂いたものだけど、花束と…あまったスイーツも
持って行っていいよ」
 …うさんくさい店長だが、やはり人の心の機微に聡い。
十兵衛の悩みを解決させ、ニッコリと鏡は笑った。
「…礼を言う。明日にでも これらの料金は…」
「いいって、いいって リサイクルの一環だし  …あ、でもやっぱり元備品だからね
きちんと花月君の手に渡ったか確認したいな」
そう言いながら、十兵衛の手に乗せられたのはデジタルカメラ。

「ここを押して…こうするだけで良いから 証拠として
縫いぐるみ抱えた花月君の写真 撮ってきてくれる?勿論変な事には
使わないから」
 最後の一言が、妖しさを醸し出しているのだが、実直男はそのまま言葉を
受けとめる。
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「メリークリスマス 花月」
「メリークリスマス 十兵衛」

「思いもかけない所で、いいデータが貰えそうだな」
店長・十兵衛・花月。三者三様だが、それぞれが幸せなクリスマスで
終了しようとしていた。



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丁度 イベント日に思い付きましたので速攻で書き上げてしまいました。
…熊を抱えて街中を帰る十兵衛の絵も、ちょっと描いてみたかったです。
俊樹の場合、クリスマスとかイベントに力を入れて半年前ぐらいから
高級レストラン予約とかしてそうです。