一方、その頃の夜半。
 (…ここが…今、花月のいる街…)

 途切れそうな噂を辿り、兄の行方を追って来た。自分が唯一認める花月を、
おめおめと幼馴染みというだけの男に奪われた悔しさは、今でも癒える事がない。
(花月がどう思おうと、きっと連れ戻す)
自分が裏の跡取として下ったのも、相手が花月であったからこそだ。
 怨まれようと、どんな手段を使っても共に帰る。
その決心を持ってここまで来たのだ。

 だが、この街にやってきた時点で、花月の噂は途絶えてしまった。
(何故だ!可憐な才気溢れる和装の長髪美人など、そうそういる筈もないのに!!
…絃、を使うか…)
 
 風鳥院の絃は盗ちょ…もとい、遠方の音を拾う事が出きる、優れものだった。
可能な限り、絃を飛ばした夜半は情報を拾い集める。

「……デサァ…アッチデ……」 「…駅デ、…待合セ…」 「…携帯…落トシ…」
「…イトノ…」「…よぉ…カヅキ…」

聞えた!
確かに、絃の花月という言葉。即座に絃を手繰り、そちらへ向う夜半。
 間も置かず、会話が聞えた場所へと着いた夜半だが、それらしい姿は
見えなかった。いや、姿が見えずとも自分なら花月が居さえすれば、
すぐに存在がわかるはず。
 おちついて周囲を睥睨し、周囲の言葉に耳を澄ます。

一組のカップル+彼氏の友達らしい男の声が、ひっかかった。
「…なんだよ一樹〜超可愛い彼女じゃん…」
……嫌な予感がする。
「…糸野君ってば、いきなり呼び出すんだもん」
…予感は当たっているようだ。
 
 よくよく見ると、彼氏らしい男の携帯には『KazukiItono』
(糸野一樹だとっ!! 紛らわしい名前を!)
 連れの彼女が、どことなく花月似なのも、気に食わない。

…だが、この場で風鳥院の力を思わせる技をしかければ、追っ手に敏感に
なっている花月達は、すぐに身を隠してしまうだろう。
 せめてもの意趣晴らしに、男の上に石を落として去る夜半であった。

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元ネタは、ふーかさんの初期勘違いです(笑)
とりあえず、私の番で夜半を出したので、その後を書いてみました。
夜半も、結構現代社会に出たら世間知らずなんじゃないかな〜という
印象がありまして…。